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タイのクーデターと経済への影響

2014-06-22

5月22日午後5時、タイ全土にクーデターが宣言され、軍部が政権を掌握しました。タイにおけるクーデターは2006年9月以来8年ぶりの出来事であり、国民やタイをよく知る人物には、驚きというよりむしろ「ようやく起きた」という感想を持って迎えられた不思議なクーデターです。(筆者も前回のクーデターの時にはタイにおりました。)

 

このような捉え方をされる背景には以下の3つの理由があります。

①このクーデターが、時の政権がタイ「王国」として望ましい方向性から外れたときに定期的に起こる「自浄作用」として国民の間で認知されていること

②近年のクーデターは大規模な衝突のない、いわゆる「無血クーデター」であること

③経済への影響が限定的であると考えられてきたこと

 

今回のクーデターも例外ではなく、クーデターの前後における株式指数、為替相場にも、急激な変動は見られず、市場は至って整然とした対応を見せました。一時的に株価に値動きがありましたが、短期的には影響はほとんどなく、むしろクーデターがこれまでの膠着状態を打開する切っ掛けになるとして歓迎する傾向さえ見られました。

 

このようにクーデターそのものによる影響はさほど大きくない一方で、はや数ヶ月にわたって長引く政治的混乱は、確実にタイ経済の足元に影を落としはじめています。盤谷日本人商工会議所が会員の日系企業を対象に4月に実施した緊急景気アンケート(回答企業数:474社)の結果、反政府デモによって業績に影響があったと回答した企業は、全体の60%に達しました。同所が2月に同じ調査を実施した際の44%から16%上昇しています。

 

今回の政治的混乱による企業活動への影響のうちもっとも大きいのは、国内需要をターゲットとした産業が消費マインドの冷え込みによって受ける影響です。タイ国トヨタ自動車(TMT)の発表によると、2014年1-4月の累計新車販売台数は前年同期比43.1%減の約52.3万台にとどまっています。自動車製造業各社は、生産ラインを国内販売用から輸出用にシフトさせ対応を図っていますが、同期間の自動車生産台数統計も前年同期比27.8%減の約64.4万台と大幅に減少しており、減少分全量を吸収するのは困難であるとみられています。住宅販売戸数も同様に前年比で大きく減少しており、高価な動産・不動産の販売低迷が顕著に表れています。

 

民間消費の冷え込みに加えて、暫定政権下においては大規模なインフラ公共投資の停滞も懸念されています。民間投資についても、6月9日に、これまで空白となっていた投資額2億バーツ(約6億円)以上の大規模投資案件の認可を行う投資委員会が、プラユット陸軍司令官を委員長として組織されることとなりましたが、18日現在、未だ案件認可が出たという情報はありません。現地報道によると、認可が滞っている案件は約700件、総額7.5億バーツ(約22.5億円)に及ぶとされており、こうした事態が投資家のタイへの投資意欲を失わせ、今後、さらなる投資の減少につながる恐れもあります。

 

このように、消費、投資いずれの側面を見てもタイの国内景気を好転させる要素は乏しく、世界的な情勢不安も相俟って、今後のタイの経済成長については悲観的な見方が強い状況です。国家経済社会開発委員会(NESDB)発表によると、1月から3月までの第1四半期のGDP成長率(速報値)は前年同期比マイナス0.6%と、洪水の影響を受けた2011年第4四半期以来のマイナス成長となっています。NESDBは同時に今年の伸び率予測を1.5~2.5%と発表しましたが、今後、景気刺激策を含む暫定政権の運営次第では、伸び率はさらに下振れする可能性もあると考えられます。

 

現在のバンコク市内は、夜間外出禁止令も解除となり、市民の生活に目立って大きな混乱はみられません。日系製造業各社も日本からの出張が取りやめになるといった間接的な影響はあるものの、生産活動は通常通り続けており、一見すると、今回の政変による影響はあまりないように思えます。暫定政権の運営の方向性や今後の民政移管スケジュールに関心が集まりますが、今後、国内経済の減速がどのような形で表れてくるのかにも注意が必要です。

 

(石毛 寛人)

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