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海外展開希望企業とのQ&A

2017-04-30

三多摩支部国際部
江崎 秀之

ある企業から、2016年末に以下のような質問を受けました。当該企業とのやりとりが日刊工業新聞に掲載されましたのでここに紹介いたします(転載許可済)。

【質問】
創業35年で30億円企業に引っ張り上げた中小企業の会長です。主に生産設備の設計、組立で、大概の要求には応えられますが、5年前から自社開発した画像処理を使った高精度位置合わせ機構が評価が高く、この技術を応用した設備注文が売上を底上げしています。もう70に近いので、昨年右腕だった取締役営業部長に社長職を譲り、社外との交流を担当しながら、なにか新しい事業のタネがないか探しています。
国内は人口減少、消費意欲の減退で見通しが悪く、好調なうちに海外進出への布石を打っておきたいものです。またどうせなら残り少ない余生で海外発展途上国に貢献したいという思いもあります。開発部の若手を数名でプロジェクトを組むことは可能ですが、活動の焦点が定まりません。途上国の発展に貢献できるなら、相応の補助金などもありそうです。
当社のような背景で、海外進出の足掛かりを兼ねて貢献活動をするには、どこから手を付けて何に注意すべきなのか、意見を聞かせてください。

【回答】
途上国でのビジネスには様々なリスクが考えられます。治安、為替、政情不安といった一般的なリスクの他に、賄賂の要求、公的手続に時間を要する、ストライキ、代金未回収、模倣など、挙げればキリがありません。これらのリスクを低減する提案として、まず公的制度の活用が挙げられます。海外展示会出展費用の補助、FS調査費用の補助、海外企業を日本に招いての無料マッチングなどです。また、途上国の貢献(医療、平和構築、教育、農業等)に資する製品・サービスであれば、国際協力機構の海外展開支援制度の活用も一考の価値があります。こういった諸制度の活用で、コストやリスクを抑えつつ途上国へ進出することが可能です。一方で、これらの制度は魔法の杖ではないことを意識しておく必要もあります。私のこれまでの企業支援の経験から、留意点を3つ挙げます。

1.補助金は目的達成のためのツール
会社の事業目標を補助金を活用して実現するのが主筋であって、補助金があるから海外展開を検討するようではうまくいきません。貴社の「画像処理を使った高精度位置合わせ機構」で途上国のどのようなニーズに応えていくのかを明確にしましょう。
2.会社が主体的に関与する
支援者や支援機関に依存する他人任せの海外展開はうまくいきません。トップの下にプロジェクトチームを作って、制度を理解し、会社自身が現地に足を運び、必要な書類を作成する、などそれなりの工数が必要です。
3.途上国とのWin-Winの構築
現地側の限られたリソースや不十分なビジネス環境を勘案し、相手国の発展に寄与する高い意識が求められます。拡大に時間はかかりますがBtoBよりもBtoG(Government)アプローチが有効な場合もあります。

他にも多々ポイントはありますが、企業の発展の一方策として途上国への進出・貢献は有効な選択肢です。諸制度の内容を精査いただき、貴社の発展に結びつけて頂ければと思います。

(日刊工業新聞2016年12月29日掲載)