メディカルツーリズム
三多摩支部国際部
君塚吉是
昨今、「メディカルツーリズム」といった言葉を聞く機会が増えている。我が国では「医療ツーリズム」とも呼ばれ、主に中国等の富裕層向けインバウンド需要を意味するものとして使われている。政府もメディカルツーリズムには熱心で、経産省も「外国人患者の医療渡航促進に向けた現状の取組と課題について」とのレポートを昨年10月に発表している。また、「メディカルツーリズム協会」といった法人も設立されていて、大手旅行代理店や医療機関もその将来性には興味を隠さない。
メディカルツーリズムは、「高度医療」を求めて途上国から先進国に向かうものと、「安価な医療」を求めて先進国から途上国に向かうものに大別される。前述の我が国の例は、前者の「日本の高度医療」を売り物にしたインバウンド需要を意図したものだが、市場規模は後者が圧倒的に大きい。我が国は良くも悪くも国民皆保険制度や、言葉の問題もあり、途上国で安価な医療を受ける「メディカルツーリズム」の存在はあまり注目されていない。
個人的な話であるが、親戚が歯科医であったことが災いし?私は、若年時から歯の治療を頻繁に受けてきた。昔の歯科治療は積極的に抜歯していたこともあり、気が付くと歯の欠損が多くなっていた。結果的に、今般インプラント治療の検討を迫られえることになった訳であるが、インプラントは国民保険の対象外でもあり、結構な金額となる。そこで、アウトバウンドでのメディカルツーリズムを考えてみることにした。
調べてみると、アジアのメディカルツーリズムでは、タイやマレーシアが有名だが、歯科の治療費はあまり安くなく、ずば抜けて安価だったのがインドだった。インドは英語が公用語の一つであることや、医療技術の高さにも定評があり、イギリス、アメリカ、オーストラリア等から治療目的で訪れる患者数が極めて多い。そんな背景と、たまたまバンコクまでのLCCチケットを持っていたことも重なり、インドでインプラント手術を受けてみることにした。
先ず、バンコク以遠のエアーはコルカタ(旧カルカッタ)便が安かったので、コルカタでドクターを探した。さすがにメディカルツーリズム大国のインドのこと、ドクターは簡単に見つかった。次に見積もりを取得したり、信用に足りるドクターか調べたりした(当然、ネットだけの調査なので限界はあったが・・)。最終的には、価格の妥当性やメールのやり取りもスムーズだったこともあり、インド行きを決断。もし、訪問して設備等に懸念があれば「止めればよいか」との軽い気持ち?で訪印に至ったのである。
インドに行ったことがある方はよくご存じだと思うが、初めての訪印はかなりのカルチャーショックを伴うことになる。そんな状況のなか、両替、現地SIMの手配を済ませた後、タクシードライバーと交渉して、何とかアポを取った歯科医院にたどり着いた。インドに対するファーストインプレッションとは異なり、ドクターは米国留学帰りの流ちょうな英語を操る若者で好印象。設備も一般的な日本の歯科医より高度で最先端の機器が揃っており、当初の懸念を払拭することができた。また、オペの説明や価格提示も丁寧・適切だったこともあり、最終的に治療を決断するに至った。オペの方法はImmediate Implantと呼ばれている最新のもので、インプラントはイスラエル製、クラウンはドイツ製のセラミックに決定した。
それから5カ月が過ぎようとしているが術後の経過も順調である。振り返ってみると、高品質で安価なサービスを受けられたように思う。考えてみれば、バンガロールを中心とするインドのIT産業は有名だが、ITだけでなく、理科系インド人のクオリティーは極めて高い。無論、最終的には自己責任の部分が大きいが、当該リスクを取る意味があったように思う。
最後になるが、結局費用は幾ら掛かったかについて報告する。具体的な金額は差し控えるが、エアー、宿泊・食事等滞在費、治療費等全て加えた金額が日本での治療費の約半分といったところだったと思う。インプラントを検討していて、英語でのオペに耐える自信があれば、是非挑戦してみたら如何だろうか。あくまでも自己責任を前提としてだが・・・。