経営者の方へ「経営者であるために:経営とは何か」
経営とは何か
経営者の皆さんへのコラム第1回は、「経営」そのものについてです。経営者の皆さんには、今さらながら…の感があるかもしれませんが、忙しい中でも、改めて経営(マネジメント)とは何なのか、ご自分の会社ではどうなのかと、考えてみるのも良いのではないでしょうか。そして一つでも経営のヒントを掴んでいただければ、さらに次回以降のコラムに関心を持っていただけたら幸いです。
経営とは何か?
会社の社長または個人企業の代表の皆さんなら、ご自分の企業を日々経営しておられるはずです。しかし、改めて「経営とは何か?」と問われると、非常に答えづらいのではないでしょうか。仮に、経営方法一つをとってみても、明快な正解というものがあるわけではありません。そもそも、経営の目的も評価も絶対的なものではありません。それでも、昔から多くの経営者らが「経営とは何か?」と問い続けて考えてきたのは、きっと経営そのものに大きな意味があったからでしょう。
結論的に言うと、企業を経営するということは、決して日々の仕事をただ続けることではなく、目的を実現するために努力して企業を運営していく…さまざまな資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を組み合わせて活用していくことにほかならないのです。
では、その目的とは何でしょうか? たんに儲けることでしょうか? それだけはなさそうです。また、目的に向かって運営する過程では、ルールを守り、制約を乗り越え、上手くやるための工夫も必要です。いったいどんな知恵や手法があるのでしょうか? これから考えていきたいと思います。
事業と企業
用語としての事業と企業は、世間ではあまり定義を意識せず使われていますが、広辞苑によれば、事業は「 ① 社会的な大きな仕事。② 一定の目的と計画とに基づいて経営する経済的活動。」とあります。そもそも「業」とは生活の中心を支える仕事のことなので、「生活の中心を支える仕事を務めて行う」ことが事業、「生活の中心を支える仕事を企てること、またはその組織」が企業になります。さらに用語としての企業のポイントは、目的と計画が重視され継続して行うことといえます。もっとも、英語ではどちらもbusiness*ですから、日本では状況によって使い分けているようです( *日本で大人気のドラッカーは「ビジネスの目的は“顧客の創造”だ」と言い切っています)。
さらに、現代の企業の起源は15~17世紀の大航海時代の商人仲間による共同出資・無限責任の合資会社とされますが、それを踏まえて組織面から見た企業には次の4つのポイントがあります。
① 企業は複数の人間が共に活動する組織体である。
② 企業は意識的に調整された組織体で、管理あるいはマネジメントが存在する。
③ 企業には構成員がおり、一定の継続的な関係を結んでいる。
④ 企業には目標(objective)あるいは目的(goal)が存在する。
以上からも、企業は複数の構成員による組織体で目的を持ってマネジメントされる、となりそうです。
1.事業は必ず成功するものと考える | 6.人を育てる経営 |
2.目標をかかげる経営 | 7.うまくいかないのは不景気のせいではない |
3.日に新たな経営 | 8.目に見えない要素を大事にする経営 |
4.素直な心 | 9.青春とは心の若さである |
5.人間は磨けば輝くダイヤモンドの原石 | 10.企業の社会的責任 |
日本の経営
わが国には業歴100年を超える長寿企業が世界で最も多く存在します(2019年33,259社:帝国データバンク調べ)。その理由は、企業の永続性を重視した経営が多いためと言われています。そもそも日本では、家族・同族・従業員が家業としての企業に長期間携わってきたことから、生業(なりわい・職業)としての永続性が強く求められた歴史もあります。
また、日本的経営という表現をしばしば耳にします。1950年代半ばから70年代にかけて日本は高度経済成長を遂げ、日本企業は強い競争力を誇りました。その源泉には独自の経営システムがあったとして、これを日本的経営と呼び「終身雇用、年功序列、企業別組合」が特徴とされました。日本的経営については、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』のエズラ・ヴォーゲル氏のような高い評価もあれば、その後勢いをなくした日本経済の実情を前に、グローバリズムの影響もあって日本の独自性を強調しすぎるべきでないという見解もあります。
一般的に、日本的経営には次のような特徴があるとされます。
[経営手法] 家族主義(源流は江戸時代の商家や武家の伝統)
[意思決定] 稟議制度、集団主義、ボトムアップ方式、コンセンサスの調和重視
[企業間関係] 企業グループで株式持合、メインバンク制
[雇用制度] 終身雇用、年功序列制、新卒一括採用、社員の高い忠誠心
[労使関係] 企業別労働組合で労使協調、福利厚生・社員研修の充実
[市場慣行] 官僚統制、官民協調、業界団体内調整 (護送船団方式など)
[会計情報] 緩い企業会計原則、短期的に左右されない長期的経営
[収益] 長期的収益優先、社員への分配重視
なぜ企業にはミッションが必要か
さて、企業には目標が必要だということは、これまでの説明を待つまでもなく、社長の皆さんは経験則で認識しておられると思います。中でも「企業が果たすべき使命、企業の存在意義」はミッション(mission)として、企業の永続性を確保する上で非常に重要です。例を上げてもう少し掘り進めます。
ソニーグループの事業は非常に多岐にわたっています。音楽・映像機器、ゲーム機、携帯電話・インターネット機器、それらの関連ソフト、放送機器、医療機器、半導体、音楽・映画の製作、そして金融。最後の金融分野がグループ営業利益に占める割合は2018年度で約18%です。実は金融分野の収益でグループを支えていた時期もありました。ちなみに、エジソンが創った米国の電機会社GE(ゼネラル・エレクトリック)は、1980年代に金融事業に資源を投入し家電事業は撤退するという、ドラスティックな戦略を取りました。もし、ソニーも儲からないからと電機事業を捨てていたら・・・、社員はどこに向かえばよいか、どう仕事をすればよいか迷ってしまい、かつてのGEのように各部署が勝手に動き出して、優秀な社員はどんどん辞めていったかもしれません。
しかし、ソニーはそうしませんでした。ソニーの設立趣意書には『自由闊達にして愉快なる理想工場の建設』を目指すとあり、それが社員に刷り込まれた信念になっていました。電機事業はソニーの創業事業であり、アイデンティティ(存在意義)なのです。そして、ソニーは次の企業理念にあるように「場を使って感動を届けること」をミッションとしており、今も優れた音楽・映像機器を生み出しながら、先述の通り多岐にわたる分野で事業を展開しています。
ミッションそしてビジョンは、社員全員が目指すゴールを定めるているだけでなく、そこに至るアプローチとやるべきことも、結果的に規定しているのです。
ミッション・ビジョン・バリュー
ここで、ミッション、ビジョンさらにバリューについて整理しておきましょう。
実例として、良品計画のミッション・ビジョン・バリューをご覧ください。
もうひとつ、日立グループはミッション・バリュー・ビジョンを次のように体系化しています。
ミッションの定め方
では、ミッションの定め方について具体的にご説明しましょう。次の3つの点に注意します。
マネジメント
企業におけるマネジメントとは、「経営・組織を管理する」ことです。さらに詳しく言い換えると、「企業の資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を管理し、リスクとリターンを計測しながら最大限の効果を得る手法」といえます。
ピーター・ドラッカーは、マネジメントの役割を次の3つに集約しています。
1)それぞれの組織に特有の社会的機能を全うする。本業を通じて社会に貢献する。
2)組織に関わる人々が生産的に働き、仕事を通じて自己実現できるようにする。
3)社会的責任を果たす。組織として最大の責任とは、社会を害さないことである。
何となく、マネジメントそしてビジネスの概要が見えてきたような気がします。では具体的に、マネジメントの5つの主な業務(仕事内容)は次表の通りです。
企業を取り巻く環境
マネジメントは、企業の資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を管理して最大限の効果を得ようとするわけですから、企業を取り巻く内外のさまざまな環境を正確に認識する必要があります。内部環境とは、企業がコントロールできる自社の環境をいいます。外部環境とは、企業の外部にあってマクロ環境、市場環境、競争環境の3つに分類できまが、何れも自社ではコントロール不可能な環境で、前提条件として機会と脅威に分けて分析します。なお、外部環境を整理するための代表的なフレームワークとして、「PEST分析」、「3C分析」、「5Forces分析」があります。
マクロ環境については、PEST[Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)]のフレームワークを使って、自社の事業に関係の深い重要な要因や環境変化を分析します。
市場環境では、3C[Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)]を把握し、自社にとっての重要成功要因を見つけ出します。
競争環境を分析するためのフレームワークとして、5つの競争要因(ファイブ・フォース)分析があります。市場における競争状況は、「①既存業者間の競争」だけでなく「②買い手(顧客)の交渉力」、「③売り手(仕入先)の交渉力」、「④代替品の脅威」および「⑤新規参入の脅威」も影響要因になり、これらの競争要因別に競争相手および競争基準を明確にするのが5つの競争要因分析です。
外部環境は自社でコントロールできないため、以上のようなフレームワークを使って、冷静に把握・分析する必要があります。そして得られた外部環境の情報から事業に利用可能な資源を見つけ出します。これを外部資源として、内部資源(ヒト・モノ・カネ・情報)とともに、管理して最大限の効果を得ようとするのがマネジメントであることは、先述の通りです。その際によく使われる手法が、皆さんもよくご存知のSWOT分析です(SWOT分析については今後のコラムで取り上げられる予定です)。
まとめ
コラムの初回は、経営とは?から始まって、事業と企業の概念、日本の経営の特徴、経営における目的とりわけミッション・ビジョンの必要性、そして資源を活用して最大効果を得るマネジメント像、外部環境の把握と外部資源の認識、と盛りだくさんになりました。説明しきれなかった点があるかもしれませんが、改めて経営について見直し、ご自分の経営スタイルを考えていただければ、幸いです。
経営手法は十人十色、絶対的な正解はありません。もし悩まれるようなことがあれば、お近くの中小企業診断士に相談していただき、ミッション・ビジョンの実現に向かって力強く会社をリードしていってください。元気な社長さんのお姿を期待しております。
吉本 準一(吉本経営オフィス)
中小企業診断士/証券アナリスト/日本経営診断学会理事
メガバンクと関連会社に約40年勤務し、千数百名の社長さんから、融資・運用・経営・営業・総務・人事など多岐にわたる相談を受ける。
現在も、経営の根幹に係る経営戦略、事業承継から、内部管理、人材育成等の実践現場まで、経営者の皆さんとともに活動中。