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経営者の方へ「経営者であるために:価値と経営理念」

2020-01-06

価値と経営理念

 コラムの第二回は、「価値と経営理念」がテーマです。
 経営理念は、決して大会社だけのものではありません。規模の大小にかかわらず、その事業をなぜやっているのかが明確か不明確かでは、企業の運営・存続に大きな違いが出ます。そもそも、日本の老舗と呼ばれる長寿企業には、経営理念に相当する家訓や店則をもつものが少なくありません。
 また、ご自分の企業が生み出す価値について、一度考えてみましょう。事業の重要性や企業の存在価値を改めて認識できるかもしれません。それは経営にとってプラスになること間違いありません。

価値とは?

 「価値」はごく一般的な言葉ですが、改めて「価値って何?」と問われると、定義がなかなか難しいものです。私たちが日ごろ使っている用語としての価値を挙げてみても、利用価値、希少価値、付加価値、交換価値、市場価値、社会価値、貨幣価値、剰余価値など、多くを使い分けています。広辞苑には「物事の役に立つ性質・程度。経済学では商品は使用価値と交換価値とを持つとされる。値打ち。効用。」とあります。さらに、哲学用語としての価値はまた別の意味を持っており、経済学や経営学においても単純な定義から発展して価値論というジャンルを形成しています。
 ここでは事業と価値の関係に目を向け、まず「事業は価値を生み出している」という前提で話をスタートし、価値についても考えていきましょう。なせなら「生活を支える仕事を行う」ことが事業であり、一般企業は価値としての利益の追求を抜きにしては成り立ちません。詳しくは後にしますが、実は事業(実行組織体としての企業)が生み出す価値とは何なのか、その価値を何をもって評価するのか、世界中の経営学者らが今も議論しているのです。

事業が生み出す価値

 さて、事業は価値を生み出しています。世間一般では、価値を生み出さない事業は意味がないと思われおり、そのような事業は廃止せざるを得ません。これは重要な点で、価値が利益そのものなら、利益を生み出さない企業*は存続できないと言い換えられます(*公益企業などの非営利企業は含まず)。儲けられない会社は、やがて資金繰りがつかなくなって、従業員に給料が払えず仕入れ先に代金も払えず、潰れてしまうのは自明のこともしれません。
 ただ、価値とは金銭的な利益のことだけでしょうか。ここで、先に挙げたさまざまな価値の定義を思い出してください。確かに価値の多くは金銭で評価でき、それが大きいほど評価が高くなります。しかし、社会価値というものは、金銭で評価できるでしょうか。
 企業活動が社会や環境に悪影響を及ぼす可能性があることは確かです。かつては日本でも大問題であった大気汚染・水質汚染は、空気や水という公共財の価値を著しく下げていました。現在では環境破壊が世界中のあらゆる場所で問題になっています。これに対して企業側は、大企業を中心にCSR(企業の社会的責任)として、本業から出た利益を本業外の社会的な活動に使う社会貢献活動を推進してきました。これは大いに評価されるべき動きですが、そもそも社会価値を損なわない、さらには積極的に社会価値を増加させる企業活動ができないものでしょうか。そして、それをどう評価すればよいでしょうか。
 企業も、目先の利益(金銭的価値)だけに目を奪われず、長期的な観点で社会につながる価値を生み出すことを重視するようになってきました。CSV(共通価値の創造)もその一つです。
 こういった、企業の経営方針は、どこから生まれて、実践され続けるのでしょうか。企業活動に対する考え方がきっちり固まっている必要があります。それは、経営理念によって示すことができ、社内で醸成・伝承されていきます。では、この経営理念についてお話ししましょう。

CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)
ひとくちコラム
 企業の競争戦略論で知られるハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授が、2011年にCSR(企業の社会的責任)に代わる新しい概念として提唱しました。事業で生み出す価値と社会価値の両立という考えに基づき、事業を通して社会価値を生み出すことこそが企業の使命であり、しかも競争優位につながるといいます。そして、企業が自己の事業で培った最も得意な領域で、社会価値を生み出すのが最も効率的だとします。さらに社会価値と両立する事業を構築することこそイノベーションであり、それが本業を強くすると主張します。日本でも、多くの企業がこのCSV活動を展開するようになり、年次報告書には自社がどんな共通価値を生み出したかアピールしています。

経営理念とは?

 企業は多様な構成員による組織体ですから、ただ勝手に活動していたのでは、事業内容が分散化したり希薄化して事業の継続が難しくなり、場合によっては企業の存続そのものが問われかねません。
経営理念は、企業が目指すべき方向を示す指針として、企業の存在意義や使命といった価値観を表します。それは創業者の信念や哲学であったり、創業メンバーに共有された価値観であったり、企業を変革して再スタートしたときの社員の想いであったりします。

経営理念の必要性

 経営理念のもたらす効果は大きく、社員の行動規範や判断の基準となるだけでなく、共感する社員が多ければ多いほど企業全体の結束力が強まります。また、その共感が社員の働くモチベーションになり、人材育成にも寄与します。さらに、顧客や社会へ経営理念を発信することで、企業のブランディングに役立ち、社会的信頼を得ることにも繋がります。

経営理念がもたらす効果
□ 企業内で価値観が共有できる □ モチベーションがアップする
□ ブレない意思決定ができる □ 自立した人材が育つ
□ 一致団結した組織になる □ 良い人材が集まる
□ 仕事のやりがいが高まる □ 企業の社会的信頼が得られる

では、具体例として皆さんもご存知の企業の経営理念をいくつか見てみましょう。

グリコの経営理念

「おいしさと健康」
 美味しさの感動を健康の歓びを生命の輝きを
 Glicoは、ハート・ヘルス・ライフのフィールドで
 いきいきとした生活づくりに貢献します。

ミズノの経営理念

より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する

白洋舎の経営理念

人々の清潔で、快適な生活空間づくりのために、たゆまぬ技術革新と
感動を与えるサービスを提供し、社会に貢献します。

奥村組の経営理念

奥村組の経営理念

コメダホールディングスの経営理念

コメダホールディングスの経営理念

経営理念をつくる

経営理念のつくり方のポイント
1.会社のこれまでをよく振り返る 経営理念の4つの要素
2.将来どんな会社でありたいか考える ① Mission (使命)
3.他社の事例も参考につくってみる ② Vision (志)
4.4つの要素を参考に見直す ③ Value (価値観)
5.人の話も聞いて何度でもつくり直す ④ Way (行動指針)

実際に経営理念をつくる方法を、手順を追って説明しましょう
経営理念をつくる方法

 さらに、経営理念は社員に浸透しなければいけません。クレドカード(経営理念や行動方針が記載されたカード)を配布して唱和したり、定期的なアンケートや評価制度に組み込んだりして、社員自らが自分ごととして取り組むように誘導し、社内での定着を図ります。

ビジョンとは?

 経営理念とよく似た概念に「ビジョン」というものがあります。企業のビジョンを簡単に言えば、「理念を基に事業を進める上で、中長期的に実現したい組織像や事業像」です。つまり、経営理念とビジョンは、ピラミッドにおける上下の関係になります。そして、ビジョンに込めた組織像や事業像を実現するため、戦略や戦術といったより具体的な計画と実践を積み上げていきます。

マネジメントの5つの主な業務

まとめ

 今回は、価値と経営理念についてご説明しました。皆さんの会社でまだ経営理念が定められていなければ、ぜひ本文で説明したつくり方を参考につくってみてください。自社がどんな価値を生み出しているのか、将来はどうあるべきかなど、改めて見直す良い機会になります。それに、その定着の過程で社員とのコミュニケーションが進み、間違いなくモチベーションアップにも繋がります。
 そして、ご自分の会社に自信と希望をもって、経営にあたってください。社員も社外の皆さんも、頑張る社長さんを見ています。

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≪執筆者紹介≫
吉本 準一(吉本経営オフィス)
中小企業診断士/証券アナリスト/日本経営診断学会理事
メガバンクと関連会社に約40年勤務し、千数百名の社長さんから、融資・運用・経営・営業・総務・人事など多岐にわたる相談を受ける。
現在も、経営の根幹に係る経営戦略、事業承継から、内部管理、人材育成等の実践現場まで、経営者の皆さんとともに活動中。
吉本 準一
 
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