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パキスタンのIT産業について

2020-02-09

東京都中小企業診断士協会 三多摩支部
設楽英彦

1.はじめに
皆さまは「パキスタン」というとどのような印象をお持ちでしょうか。
パキスタン(正確にはパキスタン・イスラム共和国、以下「パキスタン」)ではありませんが、隣国のアフガニスタンで昨年、人道支援に取り組んできた中村哲医師が銃撃されたことは記憶に新しいところです。パキスタンもまた、アフガニスタンとの国境地帯は長年紛争が続いており、気軽に観光に行くといった印象はないのではないでしょうか。
今回、私は仕事で同国を訪れたので、現地の状況をレポートいたします。

2.パキスタンの国内事情について
これはパキスタンに限った話ではないのですが、いわゆる発展途上国はここ数年、IT産業に力を注いでいます。その理由はいくつかありますが、
(1) 世界のIT産業の中心がGAFAに代表される米国にあり、英語が使えれば国内でも海外でも仕事が得やすい。また高度人材が求められるため、能力次第で高い給与が期待できる。
(2) 大きな設備投資が必要な製造業に比べ、初期投資が少なくベンチャーが起業しやすい。また、社会インフラ(電気、水道など)に課題が残る国でも携帯電話の通信環境は比較的整っている。(注:このことはパキスタンに限らず世界的な傾向がみられます)
(3) 中国を筆頭にインドやベトナムなど、IT産業で成長してきた国々の実績がある。
といった背景があります。加えて、パキスタンでは電力事情が悪く、常に高価な石油を輸入に頼っているため、貿易収支は慢性的な赤字体質になっています。自国の産業を保護し、かつ貿易赤字を縮小するため、輸入品には高価な関税がかかっており、そのことがまたパキスタン経済の発展を阻む要因になっているという負のスパイラルとなっています。
従って、増え続ける国民(2億777万人,2017年)の生活基盤を支える産業育成がパキスタンにとって喫緊の課題となります。そのため、外貨獲得手段としてのIT産業に大きな力を入れており、2025年までの中長期開発計画である「ビジョン2025」においてIT産業が重要な位置づけとなっており、2018年には「デジタル・パキスタン政策」が策定されました。

3.パキスタンのIT産業について


少々前置きが長くなりましたが、同国のIT産業はどうなっているのでしょうか。
内部の写真などお見せできないのが残念ですが、私が訪れたイスラマバードやラホールにはインキュベーションセンターがあり、若い人々がホワイトボードを見ながら熱心な議論をしていたり、一心不乱にPCに向かい合っていたりする若者の姿が数多く見られました。
そうです、この国は若者が多いのです。パキスタンでは毎年約2万人の新卒者がIT産業に新たな労働力として供給されているのです。(出典:パキスタンソフトウェア輸出協会(2018)) そのため、インドなどに比べ安価な労働力が競争力の源泉となっています。実際、ベンチャー以外ではアメリカなどからコールセンターを設立、受託することが大きなビジネスとなっています。加えて、私が話した限りでは、インドやシンガポールなど人によっては訛りの強いアジア諸国に比べ、きれいな英語を流暢に話しているという印象でした。
一方、課題は教育で、人材こそいるもののまだまだIT教育は世界の趨勢に追い付けておらず、他国に比べ安価な労働力以外の優位性はあまり見られません。ですが、政府が本腰を入れて人材育成に力を注いでいるということもあり、IT人材不足に悩む日本にとって近い将来、強力なパートナーとなる可能性を感じました。

3.パキスタンの街並みや生活について
イスラマバードでは終日雨だったこともあり、残念ながらいい写真が撮れませんでした。左の写真は、ラホールの観光名所(名前は失念しました)が、多くの人が訪れ、道に並ぶ店舗も賑わってました。また、日本人は珍しいのか、「Chinese?」と声をかけられることも多かったです。食事はスパイスの効いたものが多かった(カレーだけでなく、豆やチキンを煮たもの)です。またパキスタンはイスラム国家であるため、お酒は原則ありません。(外国人向けのレストランではあるそうですが、今回は訪れていません。)なお、物価は安いですが、消費税は驚きの17%です。
最後に、日本人がパキスタンに訪れるにあたり、やはり気になる点は「治安」ではないでしょうか。イスラマバードやラホールでは特に大きな不安はありませんでした(それでも行く場所によっては車を止められたりしましたが・・・)。ただし、カラチは別で、外国人は格好のターゲットとなっているため、常にガードをつけるなど万全な安全対策が求められます。
左は、宿泊したホテルから朝、外を眺めようとした際に撮った写真です。ホテルでさえも、このように外壁がガードされていることに驚きを感じました。ただ、2月のカラチは非常に気候が良く、さわやかな青空が広がっていました。テロがなくなり、治安がよくなり、パキスタン最大都市であるカラチに多くの日本企業が安心して進出できる日が待ち遠しいです。ですが、現地にいる方に聞く限りでは、残念ながらその日が来るのはまだまだ先のようです。

以上