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経営者の方へ「働き方改革と生産性向上:柔軟な働き方」

2020-03-10

柔軟な働き方

1.柔軟な働き方が求められている理由

 柔軟な働き方とは、業務内容、労働時間と勤務場所の自由度の高い働き方とされます。
 中小企業では人に依存した仕事の仕方や電話対応およびFAXでの注文受付など出社しないとできない仕事もあり、今までの働き方を変えるのは簡単なことではありません。
 しかし、少子高齢化による労働人口減少が進む日本では、多様な人材が活躍できる環境づくりが欠かせません。近年では、仕事と生活との調和と図る「ワークライフバランス」の考え方もあり、時間外労働を減らしながら生産性向上を図ることが求められます。
 そのためには、働く「空間」、働く「時間」、働く「機会」の3つを柔軟に社員が選択できる環境が有効です。これらを実現することで、社員の能力を向上させ、優秀な社員の人材流出を防ぐだけでなく、新たな戦力となる人材を確保する機会にもなります。

図表1 柔軟な働き方が求められている理由

柔軟な働き方が求められている理由

2.働きやすい環境の整備

(1)働く「空間」
 働く「空間」の整備とは、本来勤務するオフィスから離れた場所で業務を行うための環境をつくることです。自宅で業務を行う在宅勤務、短時間利用を目的とした仕事ができる場所を提供するサテライトオフィス、移動の空き時間を利用したコーヒーショップなどの環境で業務ができる環境をつくることであり、テレワークと呼ばれるものです。テレワークは、2020年7月に開催される東京五輪にむけて、普及が高まると言われています。

導入のポイントは、以下の4つです。

①対象者の決定 : 許可する対象者を確定することで申請方法などの運用方法を検討します。
②外部接続用機器などの決定: 外部接続通信手段や機器を選択し、セキュリティに関する不安を同時に払拭します。
③接続対象の決定: 外部から接続してよいシステムやデータを選択し、許可したもの以外は閲覧・保存ができないようにします。
④勤務時間の把握: 勤務時間を把握する方法を決め、時間外労働が過度に発生しないように努めます。

 テレワークは、ICT(情報通信技術)の活用が必須となるため、ICTに詳しい専門家のアドバイスや導入支援が有効です。また、テレワークによる期待した成果を上げるためには、有意義な活用方法を対象者と協議し合意することが重要になります。

(2)働く「時間」
 働く「時間」の整備とは、社員のライフステージを加味した出勤・退勤の時間や休暇を調整できる環境をつくることです。育児・介護休業法によるものに加え、独自の取組みをつくることでより働きやすい環境を整備します。

図表2 「時間」の整備の例

「時間」の整備の例

導入のポイントは、以下の3つです。

①就業規則の変更: 整備したことを就業規則に反映し、しっかりと運用できる下地をつくります。
②勤務時間の把握 : テレワーク同様に、働く時間を適切な方法で把握し対策が打てるようにします。
③業務マニュアルの整備: 休暇による業務停滞を防ぐため、誰でも理解できる業務マニュアルの更新・整備を行います。

 中小企業では、業務が属人化されていることが多く、長期の休みや退職者が出ると業務の引継ぎがうまくいかないことがあります。先進的な企業の取組みから自社に合った制度をつくることで従業員の離職率を下げ、再教育のコストを低減することも期待できます。

(3)働く「機会」
 働く「機会」の整備とは、従業員の幅広い知識・スキルの獲得や働く意欲がある方の就労する機会をつくることです。とくに副業・兼業を促進することで従業員だけでなく企業にも効果が期待できます。しかし、普及促進はこれからですから運用で改善する姿勢が必要です。

図表3 副業・兼業の効果と課題

副業・兼業の効果と課題

導入のポイントは、以下の2つです。

①申告制度の導入: 健康障害を防止し、適切な措置を講じることができるように実態を定期的に報告させる仕組みが必要です。
②新契約形態の協議 : 通常の労働契約がよいのか、請負契約など様々な要素を検討できる仕組みを設けるのが良いです。

 副業・兼業は、労務管理など難しい課題もあります。しかし、「就社」から「就職」を強く意識することになり、社内の人材活用機会のみならず、社外から通常よりも安価な費用でノウハウを持つ人材を獲得できる機会にもなります。

3.おわりに

 柔軟な働き方に正解はなく、100社あれば100通りのやり方があります。実施する目的を全従業員で理解し、自社の状況に合う方法を実行しなければ、期待した効果が得られないでしょう。経営者と従業員がお互いに信頼の貯金をしながら一人ひとりが自分らしく働くことが会社への貢献につながり、理想の状態になる近道となります。

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≪執筆者紹介≫
石川 達也(2017年中小企業診断士登録)
コンピュータメーカーおよび情報システム構築企業で法人営業を長く経験したのち、経理、管理会計や取締役の意思決定支援にかかわる業務に従事。現在は中小企業に勤務し、社長の理解者になるべく汗をかきながら、経理と社内業務改善を行っている。

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