経営者の方へ「働き方改革と生産性向上:生産性向上」
生産性向上
「生産性を上げるというのはコスト削減や時短、効率化のこと?」
「ITツールの数が多すぎて、どれが効果的で安全に使えるのかわからない。」
生産性という言葉に対して、このようなイメージをもたれる方も多いのではないでしょうか。本稿では、生産性とは何か、なぜ今生産性向上が必要なのか、そして生産性向上の進め方や考え方についてご紹介します。
1.生産性とは
生産性とは「生産要素の有効利用の度合いである」と定義されます。簡単に言えば、事業に投入した労働力や設備が、その何倍の利益を生み出しているのかを図る指標が生産性です。算式で表すと次のようになります。
この算式が示すように、生産性を向上させるには分母であるインプットの削減あるいは分子であるアウトプットの増加を図ることが基本的な考え方になります。
さらに生産性の中で最も重要視される指標が「労働生産性」です。労働生産性とは従業員1人が生み出した付加価値額(利益額)を表します。投入する資源の中で最も大きな費用を占めるものが「人件費」、すなわち労働力です。従業員1人がどれだけ利益に貢献しているかは、多くの経営者にとっての関心事ではないでしょうか。
2.なぜ今、生産性向上が必要なのか?
①人口減少による労働人口と需要減少
人口減少により優秀な人材確保はますます困難になると同時に、国内需要量も縮小していくことが見込まれます。企業には少ない人的資源で最大限のアウトプットを創出することが求められています。
②働き方改革への対応
個人のワークライフバランスを尊重した政府の取り組みである働き方改革への対応が求められるなかで、もはや長時間労働や一律の雇用形態に頼った業績の維持・向上は出来なくなりつつあります。
③日本の労働生産性は先進7か国中最下位
日本の時間あたり労働生産性は約50年間、先進7か国で最下位を独走しています。人口減少局面を迎え、さらに個人のワークライフバランスが重視されるなか、依然従業員の労働生産性が低いままでは、今後ますます競争力の弱体化を招く恐れがあります。
④生産性向上は社会、企業、個人(労働者)の課題を同時に解決する
人材不足と市場縮小への対応、働き方改革への対応、個人のワークライフバランスの実現、企業競争力の強化・・・これらの課題をすべて解決できる手段が「生産性向上」にほかなりません。限られた労働量で最大限の付加価値を創出すること、言い換えれば、従業員の数を増やすのではなく、限られた従業員1人1人がより多くの利益を生み出せる仕組みを作ることで、これらの課題をすべて解決し、企業に持続的競争優位をもたらすことが可能となります。
⑤生産性向上は企業、従業員双方に利益をもたらす
労働生産性向上は、従業員1人当たり賃金と企業の利益双方を同時に増加させることになります。利益に占める総額人件費の割合を増やすことなく従業員の賃金を向上させることができ、優秀な人材確保にも繋がります。またそれが企業に高い生産性と利益をもたらし、企業・従業員双方がWin-Winの関係を築く好循環が生まれます。
3.生産性向上に必要な4つの視点
生産性向上はその指標が示す通り、分母の経営資源投入量を削減し、分子の付加価値を最大化することで達成されます。
生産性向上とはコスト削減や時短ばかりではありません。もちろん、価値の低い作業は業務の標準化やIT技術の活用で徹底的に効率化すべきです。しかし、それだけでは企業の持続的競争優位を築くことにはつながりません。
業務プロセスそのものを変革することによる大幅なコスト削減、儲けを生み出すビジネスモデルへの変革、市場に高い価値を提供する画期的な商品/サービス開発など、インプット削減とアウトプット増大の両輪があってはじめて生産性向上が実現されます。
また組織や人材の学習・成長の視点も見逃せません。組織や従業員が、現状の業務プロセスや顧客への提供価値について絶えず疑問をもち、「もっと業務を効率化できないか」「もっと顧客への提供価値を増大させる革新的なサービスを打ち出せないか」などを自発的に考え、スピーディな意思決定をしていく仕組みをつくることが、生産性向上の大きなカギとなります。そのための従業員の能力開発、目標設定や評価の見直し、最短時間で価値ある意思決定を可能とする会議体運営など、管理職やホワイトカラー層の生産性向上は大きな課題です。
4.生産性向上の進め方
生産性向上は次の手順で進めていきます。
この中で生産性を定量面、定性面から現状把握し、生産性目標を設定するフェーズは非常に重要です。そもそも現状を正確に把握できなければ、何をもって生産性が向上したとするかという目標も立てることができません。さらに問題になるのは、「何からどのように着手すればよいかがわからない」ために生産性向上が進まないことです。したがって、まずは生産性の現状を定量・定性分析により「見える化」する事が最初の一歩となります。
そのうえで生産性目標を設定します。当然のことながら生産性指標は最終的な財務結果と強く結びついています。従って生産性目標は企業の戦略と照らし合わせたうえで、目標経常利益や目標キャッシュフローなどから逆算して設定します。さらに各部門や現場に生産性指標を設定することもあります。
5.具体的施策の検討
具体的施策は、先ほど紹介した「顧客、業務プロセス、組織・学習・成長」の視点から総合的に課題を設定します。生産性向上に向けた具体的取り組みには、生産性目標の高さに応じて次の4つの方向性があります。
たとえば生産性向上目標が5%増と30%増では、当然取り組むべき具体的施策も異なってきます。事務処理時間を5%削減するなら、事務員の多能工化や作業手順の変更などの業務改善で達成できるかもしれません。しかし事務処理時間を30%削減するとなれば、RPA導入のような革新的な効率化を検討した方がよい可能性もあります。生産性目標と施策の導入コストのバランスを考え、最適な施策を検討することが生産性向上に繋がります。
次に、生産性改革に向けた具体的施策の一例をご紹介します。
生産性向上に向けた具体的施策は非常に多岐に渡っています。「自社にとってどんな取り組み、どんな技術を導入すれば良いのかわからない」と悩まれている方も多いかと思います。どの領域でどのような施策に取り組むかは、経営戦略やビジネスモデル、業務プロセス、組織構造など企業経営を多面的にとらえ、全体最適の視点に立ち、生産性の現状とありたい姿を明確にした上で最適な施策を選択・実施していくことが大切です。
6.今こそ、生産性改革のとき
人口減少、ワークライフバランスの実現、企業の競争力強化という課題を同時に解決できるのが「生産性向上」です。ここまで見てきたように、企業活動を多面的にとらえ、真に取り組むべき生産性向上策を絞り込み、果敢に実行していくことが、生産性を大きく向上させることに繋がります。
私たち中小企業診断士は企業経営のゼネラリストとして、あらゆる角度から企業それぞれの実情に合った生産性向上策を立案できることが強みです。また、各人が特定分野のスペシャリストとしての知見を活かし、IT技術導入、組織開発、販路拡大、ビジネスモデルの変革など、経営者の皆様と伴走しながら生産性向上をご支援させていただきます。
今こそ社会を取り巻く課題を好機ととらえ、生産性改革を促進し、企業の持続的競争優位と永続的な発展を実現していこうではありませんか。
白井 康嗣(しらい こうじ)
「企業の持続的な利益向上の仕組みづくりと運用」をテーマに、戦略策定、組織活性化、人事制度設計、会議の生産性向上、管理会計導入などを支援している。白井経営コンサルティング事務所代表
(HP:https://shirai-consulting.com/)