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経営者の方へ「働き方改革と生産性向上:残業時間削減の方法」

2020-03-10

残業時間削減の方法

9割の企業が失敗「働き方改革」の実態
このような見出しの記事が1月6日付の47NEWSに上がっていました。
https://this.kiji.is/583124658582111329?c=39546741839462401

働き方改革というと定時退社、フレックスタイム、育児休暇などの豊富な休暇制度、男性・女性ともに働きやすい職場づくりなど様々あり、「失敗」をどうとらえるかは一概に言えません。しかし、失敗の原因の一つは、現場の実態を把握せずトップダウンで決めてしまい、無理が生じたためではないかと考えます。
たとえば、定時退社日を決めたとしましょう。しかし、求めるアウトプットの量が減らないにもかかわらず、作業時間を減らすことだけを現場に丸投げしてしまえば現場は困ってしまいます。
本稿では働き方改革の一つである残業時間削減への取り組みにフォーカスして、具体的な実践方法を紹介します。

コラム1 突然通達されるノー残業デー
「働き方改革の一環で、来月から水・金は定時退社で、それ以外の平日は20時に消灯、PCオフとします。それ以上残業しないようにしてください。」
筆者が勤めていた企業でこのような通達がありました。忙しい時は21時を超えるのも当たり前でしたが、どうすればいいでしょうか?と上司に尋ねました。すると、上司は、時間内に終わるように考えてください、と一言だけでした。
筆者はどうにかやりくりしていましたが、ある人は朝早く来る、ある人はこっそり持ち帰って、ある人は休みの日になどなど、結局は20時までに帰るということ以外は求められるアウトプットは減るわけでも納期が延びるわけでもなく、どちらかというと作業も増え続けて、本来は社員のための取り組みなのに、不満がたまってしまいました。
時間がたつにつれて、ぽつぽつ20時以降も作業する人たちが出始め、いつの間にか元に戻ってしましました。

残業時間削減の必要性  ~実践の前に~

2015年12月25日クリスマスに広告業の当時24歳の女性が自ら命を絶ちました。彼女の残業時間は認められているだけで100時間を超えていたとのことです。単純に稼働日20日、1日5時間とすると、毎日22時まで働いていたことになります。
すでに顕在化し始めていますが、今後日本は少子化による人材不足がさらに顕在化し、ただでさえ人材が少ない中、社員を守れないような企業に人が集まってくることはないでしょう。
まずは、トップと社員全員が残業増やさないという強い意志を持つことが必要です。そのためにはこれまでの習慣やルールを変えていく必要があります。
残業時間削減は1回だけで解決することではありません。ましてや単にITシステムを導入すれば解決するものでもありません。継続的に、地道にトップ自ら意識を変えていく姿勢が必要です。

3つのステップで残業時間を削減する

思いを新たに具体的な残業時間削減に取り組んでみましょう。残業時間削減を実現するにあたって、取り組むべきことの手順は簡単です。
①あるべき姿・ゴールは何か
②現状把握・今どうなのか
③Gapはどこにあるか
まさしくカイゼンです。基本は全くカイゼンと同じです。このセオリー通り進めてみましょう。

①あるべき姿・ゴールは何か? ~感覚と人数はあっているか?~
最初にあるべき姿を描きます。今一度現場の状況を再確認しておく必要があります。
今いるメンバーが10人だとして、月100個製品を作っているとします。この10人が持っている時間というのは8時間×20日(稼働日)×10人=1600時間となります。法定労働時間は1日8時間、週40時間以内と定めています。ですので、1600時間で100個の製品を作ることは、適正なのか、そうでないのかをこれまでの経験から感覚を持っておく必要があります。(図1)
この感覚があっていれば、当然ですが残業時間0で100個あがってくるはずです。もし8人で生産している状況であれば、残業時間が減ることはありません。逆に10人以上いるのに残業時間が発生していれば、それは何かトラブルが発生していることになります。
もちろんですが、100個を今月はどうしても120個、いや140個いる、もしくは納期遅延が発生しているから残業する・休出するという特殊事情とは分けて考えます。
10人が普段通りに作業したら100個上がってくるはず、という感覚が正しいかどうかです。製造現場を例にとりましたが、まずは難しく考えず、サービス業、建設業など、トップの感覚でこうあるべきだという状態から適正人数を割り出してください。
このように、感覚的にこの人数でこれだけの作業が残業0でできるはず、とゴールを決めておきます。

工数とアウトプットの釣りあい

図1 工数とアウトプットの釣りあい

②現状把握・今どうなのか ~キーパーソンは中間管理職~
各現場の適正人数とゴールをイメージしたら、現状把握を行います。キーパーソンは中間管理職(課長、リーダー、班長など)です。なんとなくうまく回っている現場のその裏では課長・リーダークラスが残業により現場をフォローしている可能性があります。また、彼らは現場のメンバーを管理しつつ、トップ含む幹部とも会話をするため、もっとも残業時間が長くなります。
彼らをターゲットとして、彼らの業務のタイムスタディを実施します。期間は1週間、できれば2週間とります。10分単位、もしくは15分単位で、来た時から帰る時まで、何をしていたかメモしてもらいます。エクセルでも週のタイムラインを書いた紙でも構いませんので、何時から何時まで何をしていたか書かせます。
その時、あまり凝る必要はありませんが、内向けの活動なのか、外向けの活動なのか、および定常業務なのか、非定常業務なのかを4象限で分けておきます。(図2)

タイムスタディの4象限

図2 タイムスタディの4象限

加えて、会議か会議以外の作業かも書ければ書きます。会議であれば、生産会議、課長会議、品質会議など、作業であれば報告書作成、他部署問い合わせ対応、部長依頼事項対応など、後で思い出せるくらいで書いておきます。細かく書く必要はありません。
これを2週間実施し、集計します。一人ひとりが何をやっていたか見えてきます。(図3) すると、Aさんは、会議ばかりやっている、ということや、Bさんは非定常業務に日々追われているなどが見えてきます。中間管理職のメンバーは、日中は現場を走り回って、夜中に報告書の作成など本来業務に取りかかっていませんか?

タイムスタディの結果イメージ

図3 タイムスタディの結果イメージ
コラム2 増え続ける非定常作業
製品修理を担当する部署の課長の残業時間が圧倒的に長く、内部の非定常作業が多いことがわかりました。課長にいつも何を行っているのか、ヒアリングしました。
すると、管轄する10人以上の修理マンから、外装部品を交換してよいかどうかの判断を常に課長が行っていることがわかりました。確かに、この外装部品は微妙なキズが付きやすく、容易に判断できないものでした。
また、この製品の外装部品は部品点数が多く、修理台数が増えるごとに、課長判断がどんどん増えていきました。
そこで、品質部門と課長とで議論を行って、課長のアタマの中にある独自基準を整理し、交換する際の判断方法を明文化しました。小キズ3個以上、大キズ1個以上などと基準を決め、写真も使いキズ見本を作成しました。この基準では判断できない場合だけ課長の判断を持つようにしたところ、課長への問合せは90%近く減り、本来業務が定時内でできるようになりました。

③Gapはどこにあるか ~業務の特徴に合わせた打ち手の実施~
ようやく残業の発生個所が見えてきました。それぞれ想定される業務と打ち手について表1にまとめました。その上で集計結果からなぜこんなに時間を使っているのかを議論し、余計な作業や、他部署・部下に渡す作業など、整理をしていきましょう。出なくてよい会議もあるかもしれません。そうすれば、これは自分がやるべきではない作業や、なぜこの作業をする必要があるのか、といったことを考えながら作業を進められるように意識が変わってきます。

表1 作業時間削減のための打ち手
業務内容 打ち手
非定常・外部
  • 部長・幹部からの特命事項
  • 他部署からの問合せ対応
  • 普段使用しない資料作成
  • 安易に指示を出させない(本当に必要な作業であるか?何のためにいるのか?)
  • 問合せ事項のマニュアル化
  • 直接問い合わせず会議などを活用
  • メールで課題リスト、問合せリストの共有
定常・外部
  • 他部署との会議(経営会議、生産会議など)
  • 会議報告用の資料作成
  • 日報、週報、月報の作成
  • 会議時間の短縮・頻度を削減
  • 参加するだけの会議から除外
  • 情報共有はメールや掲示板を活用
  • 報告書の簡素化(5W1Hシート)
非定常・内部
  • トラブル対応(品質不具合、設備トラブル、課員の勤怠など)
  • 課員からの問合せ、資料レビューなど
  • トラブルのマニュアル化
  • 暗黙知(課長しかわからないノウハウ)の文書化
定常・内部
  • 作業計画立案、進捗管理
  • 評価シート作成、勤怠管理
  • 課員の育成、育成計画の作成
  • 課長の専任業務の棚卸し
  • 定常業務の権限移譲(課長しかできない業務以外は課員が実施)
  • 管理シート・管理表などのフォーマット化

さて、一例として会議の時間短縮の考え方を紹介します。
なんとなく始まって終わるダラダラ会議はありませんか。筆者がいた工場では、とりあえず全部長・全課長に声がかかっていて、さらにスタッフまで一緒に呼び出される会議が頻繁にありました。しかも、一つも発言しない出席者、誰に向けて何のために話しているかもわからない会議もありました。

意味のある会議を開催するために下記のようなルールを決めましょう。
●会議の目的を決める(なぜ?何のために?)
●会議のゴールを決める(合意、決定、判断)
●決める人、話す人、聞く人を決める(誰でも彼でも参加しない)
●アジェンダと時間を決める
●報告資料のフォーマットを決める
●報告資料は事前に提出し、全員が目を通す
●就業時間外の会議設定は禁止

もっとも重要なことは、目的とゴールを決めることです。これがないまま開催されているようであれば、中止し、目的とゴールを決めない限り実施しないようにします。
さらに、報告資料のフォーマットにも一工夫で、フォーマットは一枚の紙に、今日の目的(話したい事)、決めたいこと、といった項目を作っておくと、報告者が躊躇なく結論を最初に話せるようになります。特に、悪い情報はなかなか言いづらいものです。
情報共有が目的である場合は、メールで共有したり、掲示板に紙を張り出したり、サーバの共有フォルダにファイルを格納するなどすることで、会議の目的を情報共有にしないようにしましょう。

コラム3 目的を見失ってしまった会議
ある会議で、経理担当が予算と実績の状況をつらつらと報告していると、工場長が突然、「毎月同じような報告なんだけど、結局ボクにどうしてほしい?」と質問しました。経理担当は答えられず困惑してしましました。
経理担当からすれば前任者から引き継いで、言われた通りに会議で報告していただけですから。
工場長の意図は、何か判断してほしいのか、何か知ってほしいのか、この会議の目的を明確にしたかったのです。もっというと大勢の部課長を集めて時間をとって会議をする意義にも疑問をもったのかもしれません。

繰り返しつづけることで、定着を図りましょう

残業時間削減は、トップダウンで残業禁止と通達すれば、その刹那はなくなるかもしれません。しかし、それだけでは翌月、いや翌週には元に戻っていませんか。
求められるアウトプットがどんどん増えていくのに、どうやって作業時間を減らせばよいのだろうか、と現場は感じています。
ですので、あまり凝りすぎない楽な雰囲気で、現状を把握することで、「なんでこんなにいろんな会議に出てるんだっけ?」とか、「これなんの作業?」とか、現場に声をかけ、必要性を議論していきましょう。
そうすると、実は、困っていまして…とか、本来こうあるところ、なかなか進まなくて…などと課題が出てきます。課題が見えれば、その後の打ち手にもつながってきます。
現場と議論を交わしながら、少しずつやり方を変えて良くなったことを感じられれば、現場の意識も変わってきます。これは必要なことだ、これはムダな作業だ、と考えながら業務に取りかかることができます。
今回紹介した方法は、お金もかからず明日からすぐに取りかかれます。ぜひお試しいただければ幸いです。

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≪執筆者紹介≫
内倉 要 KANAME UCHIKURA <mena.kara.kuchiu+c@gmail.com>
現在コンサルタント会社に勤務。福生市在住。
休日ランチ限定で、どのようなテーマでも構いませんので、お話しさせてください。いつでもメールをください。

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