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経営者の方へ「攻めと守りのIT活用:マーケティングとIT」

2020-04-04

マーケティングとIT

 マーケティングもITも難しそうでよくわからない・・・
 マーケティングにITを活用しなければいけないのはわかるが、何をしたらよいのか・・・
 予算や専門人材がいない・・・
 HP、SNS、Web広告に取り組んでいるが、あまり効果が感じられない・・・

 このような悩みをお持ちの中小企業経営者も多くいらっしゃると思います。本稿では、マーケティングにどのようにITを活用すれば売上や利益増加に繋がるのかをわかりやすく解説致します。

1.マーケティングにおけるITの利活用状況

 IT戦略の策定状況をみると、規模の大きい企業ほどIT戦略を策定しており、規模が小さくなるに従って策定していない割合が増えております。中小企業や小規模事業者のあいだでは、まだITを活用した戦略策定が進んでいない状況と言えます。

図表 1-1 IT戦略の策定状況(資本金規模別)

IT戦略の策定状況(資本金規模別)

図表 1-2 IT戦略の策定状況(総従業員規模別)

IT戦略の策定状況(総従業員規模別)

 次に、IT利用・利用を進めようとする際の課題を見ると「コストが負担できない」「導入の効果がわからない、評価できない」「従業員がITを使いこなせない」が上位に挙がっています。

図表 1-3 IT導入・利用を進めようとする際の課題

IT導入・利用を進めようとする際の課題

 続いて、ITを活用するメリットについて確認します。ホームページやソーシャルメディアサービスなど、マーケティングにおけるIT活用の効果としては、「営業力・販売力の強化」「売上の拡大」「顧客満足度の向上・新規顧客・新市場開拓」「社内の情報活用の活性化」への効果が期待でき、収益性向上への期待が高いという結果となっています。

図表 1-4 自社ホームページ、ソーシャルメディアサービスの活用の効果

自社ホームページ、ソーシャルメディアサービスの活用の効果

 以上から、マーケティングにITを活用することで売上高・顧客開拓・顧客満足度の向上による収益性向上が期待できますが、コスト・導入効果・ノウハウの問題が阻害要因となっていることがわかります。
 この結果を踏まえ、まずITを活用したマーケティングの体系図を示し、中小企業が実施できる具体的施策の事例をご紹介致します。マーケティングへのIT活用を身近なものと感じていただければと思います。
 なお、以後ITを活用したマーケティングを「デジタルマーケティング」と定義し、お話を進めて参りますのでご承知おきください。また、マーケティングについてはこちらのページで詳しく解説しておりますので、本稿を読む前にご参照ください。→マーケティングとは

2.デジタルマーケティングの体系図

図表 2-1 デジタルマーケティングの体系図

デジタルマーケティングの体系図

 上図はデジタルマーケティングの体系図となります。簡単に申し上げれば「デジタルマーケティングとは、接触した顧客データを取得し、その情報をオンライン・オフラインでの販売促進や広告宣伝に活かすこと」となります。この中でも特にIT利用が行われるのが、上図の赤囲いで示した箇所、
①「顧客情報の分析・利活用」
②HPやSNS、Web広告などの「トリプルメディアの活用」
 となります。それぞれについて説明致します。

①顧客情報の分析・利活用
 デジタルマーケティングは、顧客との接点でITを活用するため、広告宣伝やホームページの効果を詳細に把握でき、さらにリアルタイムでその効果を検証・改善できるメリットがあります(図表2-2)。

図表 2-2 顧客情報の分析・利活用

デジタルマーケティングの体系図

 たとえば、チラシや折り込み広告の場合、広告を読んだ人はどれくらいいるのか、読んだ人の中で興味をもった人はどれくらいいるのか、その中からどれくらいの人が来店したのかなどの詳細を把握するのは困難です。
 しかしWeb広告であれば広告の表示回数、クリック率、問合せ率、問い合わせを獲得するのにかかった費用、自社ホームページで顧客がどんな行動をとっているのか、などの詳細を数値として把握できます。
 したがって、その数値を分析していけばどんな検索ワードならクリックされやすいのか、どんな属性の顧客が興味関心を示すのか、ホームページの改善ポイントどこか、などを把握する事ができ、費用対効果の検証改善による収益向上が見込めます
 また、顧客の年齢層、性別、住まいの地域、趣味嗜好などにあわせた、顧客1人1人に最適な情報提案が可能となります。

②トリプルメディアの活用
 トリプルメディアとは、オンライン上で消費者と企業が接するメディアを3つに分類したもので「オウンドメディア」「ペイドメディア」「アーンドメディア」から構成されます。
A)オウンドメディア
 自社ホームページやECサイト、ブログなど自社で管理しているサイトです。オウンドメディアは自力で情報を発信することができるサイトです。自社商品の強みやノウハウをふんだんに盛り込むことができ、100%自社でコントロール可能なメディアですので、自社の特徴やウリを顧客に伝えることができます。また、来店予約や販売などの直接的なゴールに結びつけ、顧客を獲得できます。
B)ペイドメディア
 いわゆるWeb広告です。予算をかけることでメディアを使って広告を発信し、ターゲット顧客へ情報を届けられますので、効果の即効性が期待できます。
C)アーンドメディア
 アーンドとは「信用を獲得する」という意味です。つまり、自社商品を第3者の立場から評価するメディアのことで、SNS、ブログ、レビューサイトなどのソーシャルメディアでの第3者による書き込みなどが該当します。自社商品の評判が消費者の口で語られるため、口コミによる情報拡散や商品の信頼感醸成に繋がります。

3.デジタルマーケティングの取り組み事例

 それでは、楽器販売店「ハピネス」を例に、デジタルマーケティングを活用した集客例を見ていきましょう。なお、この例は実在企業の取り組み例を基にしたフィクションです。同地域、同名の企業とは一切関係ありませんのでご承知おきください。

〈楽器店ハピネス〉
 従業員数13名、立川駅近くで楽器販売店を経営。主に鍵盤楽器、弦楽器、管楽器の販売やリペア、教室事業を行っている。少子高齢化のあおりで若年層の需要は減っているが、最近中高年の間で密かに楽器が流行っており、注目している。デジタルマーケティングを本格的に開始したことで、ターゲット顧客層の取り込みが加速している。
〈ターゲット顧客〉
 立川市で夫婦と長男3人暮らしのサラリーマンA氏50歳。仕事の責任は大きいが裁量もあるため、以前よりは時間をコントロールしやすくなった。今まで休日は子供の世話や家族サービスに充てていたが、最近は子供も大学生となり子育ても終わったため、自分の時間が取れるようになっている。そのため、かねてから憧れていたギター演奏に少し興味を持ち始めている。趣味は音楽鑑賞やアウトドアで、好きなバンドはサザンオールスターズ。海が好きで、夏になると愛車のランドクルーザーでサーフィンに出かける、ちょっと日焼け顔のアクティブな中年男性。

 ある朝、A氏は立川から新宿までの満員通勤電車の中で株価、為替、経済トピックスなどをスマホ片手にニュースサイトで一通り確認し終えました。新宿駅到着まではまだ少し時間が余っていたため、フェイスブックアプリを開き、ビジネス仲間の投稿や企業の投稿、好きなアーティストの投稿などをスクロールしながら流し読みしていました。

 すると、スマホをスクロールしていく途中で「立川市で大人のためのギター体験 ハピネス」という広告(図表3-1)に気が付きました。かねてから少しギターを弾いてみたいと思っていたA氏はその広告をクリック、ハピネスのページに辿り着きます。そのページをスクロールしてみると、初心者かつ大人向けのギター演奏体験会のお知らせのようです。何となく興味はもったものの、もう間もなく新宿駅。途中まで読んだもののスマホを消してポケットにしまい、気持ちを仕事モードに切り替えました。
図表 3-1 FB広告

FB広告

 仕事で忙しくする中、ハピネスのことはすっかり忘れていましたが、1日の仕事を終え、翌朝も満員電車に揺られながら、いつものニュースサイトを眺めながら情報チェック。するとニュースサイトの1角に、昨日フェイスブックで見た「立川市 大人のためのギター体験 ハピネス」の広告(図表3-2)が出ていることに気が付きました。
図表 3-2 リターゲティング広告

リターゲティング広告

 これはもしかして昨日見たギター体験の案内?と思いクリック。今回は新宿駅までまだ時間があったこともあり、しばらくハピネスのホームページを眺めていると、大人でも楽しめる体験会の様子や、参加者の声、大人のための楽器の選び方や練習の仕方などが豊富に掲載(図表3-3)されていました。興味をもったA氏はSNSでハピネスの評判を調べたところ、評価も高そう。さっそく、体験イベントの申込ページをクリックし、週末の午後に体験会に行くことになりました。
図表 3-3 ハピネスHP

ハピネスHP

 体験会は時間予約の少人数制で行われ、プロの演奏を聴いたり、指導員が初心者の大人にもわかりやすく教えたり、ギターメーカーごとの特徴や選び方などを丁寧に教えてくれました。また、同じような大人のギター初心者同士で好きな音楽や趣味の話に花が咲き、A氏はとても有意義な時間を過ごしました。
 この体験会を通じてA氏のギターを演奏したいという気持ちは高まりましたが、決して安くはない買い物ですし、一応妻にも相談した方がいいと思い、購入や教室入会は思いとどまり、いったん持ち帰ることに。親切に対応してくれた店員が、ギターのお役立ち情報を定期的に届けてくれるとのことで、メルマガ登録(図表3-4)をしました。
図表 3-4 メルマガ

メルマガ

 週が明けて相変わらず仕事で忙しくしていましたが、時々メルマガで届くギターに関するコラムや演奏動画を見ているうちに、やっぱりギターを始めてみたいと思うようになったころ、お得なセール案内が届いたため、店頭に来店。イベント時の店員ではありませんでしたが、前回話したことや好みの音、好きなアーティストなどの情報を店員同士が共有しており、的確なアドバイスをもらうことができたため、無事ギターを購入。またギターレッスンの方も合わせて申し込みをしました。さらに店員の勧めもあり、A氏はお店のLineに友達申請(図表3-5)をしました。
図表 3-5 Line

Line

 購入してから1か月たった日のこと、ハピネスのLineから次のような連絡がありました。「前回購入時から1か月経ちました。練習は楽しんでいますか?1か月経ち、弦が黒く錆びてきたのではないでしょうか?弦が錆びていると指が痛くなったり音が出にくくなります。イイ音で練習を楽しんでいただけるよう、オススメの弦を紹介します。また、弦の張替えサービスも無料で承っています。」リンクをクリックしホームページを見ると、ECサイトからの購入もできるようでした。ただ、初心者のA氏は弦の張替え方に自信がなかったため、直接店頭に行って弦を購入し、張り替えてもらいました。

 3カ月練習し、1曲仕上げることが出来るようになったタイミングでお店の店員から「ステージで演奏しませんか?」という声がA氏にかかりました。A氏は初めての本番で緊張しましたが、とても良い気分を味わいました。お店のフェイスブックでその様子が投稿され、A氏もその投稿をシェア(図表3-6)。A氏の地元の友人や音楽愛好仲間の間に、ハピネスの情報が拡散しました。(終)
図表 3-6 FBシェア

FBシェア

 いかがでしたでしょうか。リアル店舗ビジネスでWeb広告、ホームページ、SNSなどのデジタル手段を有機的に連携させ、見込客発掘→顧客化→固定客化→ファン化による情報拡散、というプロセスを感じていただけたのではないでしょうか。
 この事例をトリプルメディアの体系に当てはめて整理すると、次のようになります。

図表 3-7 事例とトリプルメディアの関係

事例とトリプルメディアの関係

4.デジタルマーケティングへの取り組み方

①メディアプランを作ってみる
 デジタルマーケケティングを考える際は「ブログ、SNS、広告・・・色々あるが何から始めればよいのか」と考えるのではなく、まず「顧客」が誰なのかを特定し、その顧客の「認知→情報探索→購入検討→購入→再購入→推奨」という購買行動を洗い出し、各購買行動段階にフィットする施策を考えていくのが効果的です。これをメディアプランニングといいます。
 この事例では50代以降の中高年者で音楽が好きな楽器未経験男性にターゲットを絞っています。したがって「認知」段階では50代利用者が多いフェイスブックでのターゲットを絞った広告を実施し、仕事で多忙な生活背景を考えてリターゲティング広告により再想起を促しています。その際届けるメッセージは、楽器未経験の大人という条件を考えて「体験イベント案内」としています。
 そして体験イベントに申し込んだ段階と、体験イベント時に顧客の詳細情報を取得しデータ化します。この顧客データをもとに適切なコラムや動画を配信し、購入意欲を高めます。
 購入時には社内スタッフ同士で顧客情報共有システムで顧客情報を共有し、適切な接客サービスに活かします。
購入後は、購買時期や購買商品などの情報を活用し、適切なタイミングで追加商品情報をLineやメールで配信し、再来店や再購入を促します。
 さらに、お店との関りから育まれた体験価値をSNS上で共有・拡散することで新たな見込み客の開拓に繋げます。そして、この拡散されたSNS情報からお店のホームページに飛んできた新たな見込み客に対して、トリプルメディアによる情報提供を繰り返し、新たな顧客を作っていきます。
 そしてこれらの一連の活動から得た様々な情報を活用・検証・改善することで、リアルタイムで費用対効果を改善し、収益性を高めていきます。

②取り組みの優先順位を決める
 メディアプランを作りましたら、次に取り組む順番を決めます。様々な考え方がありますが、個人的にはまずオウンドメディアである自社ホームページの整備に着手することをお勧めします。理由は、どんなに優れた広告(ペイドメディア)を出しても、あなたのHPで商品やサービスの魅力が伝わらなければ、消費者は行動を起こしません。またSNS(アーンドメディア)は情報の拡散力があるものの、拡散できるかどうかは消費者に依存する部分であり、自社でコントロールすることは困難です。
 したがって、まずは自社ホームページであなたの商品・サービスが伝わるページ作りを心がけます。ある程度ホームページが整備出来たら、次はWeb広告(ペイドメディア)に挑戦してみてください。理由は、Web広告の出稿自体は少額で始められること、もう1つは広告効果を詳細に把握する事ができるので検証改善がしやすいことです。
 そしてペイドメディアからオウンドメディアへの誘導がある程度出来るようになった段階で、SNSでの投稿などのアーンドメディアの活用をご検討ください。SNSは開設に費用はかかりませんので、すぐに始めても構わないと思います。ただ、その場合は必ず運用方針を定め、定期的に投稿する仕組みを作っておくことが望ましいです。

5.まとめ

 本稿では、中小企業や小規模事業者でも取り組めるデジタルマーケティング施策について、事例を交えてご紹介しました。最後にまとめますと、
①デジタルマーケティングの利点
・顧客情報や広告宣伝効果を詳細に把握できること
・その情報を活かして最適なトリプルメディアの活用が行えること
・その結果、費用対効果を高めて収益性の向上が期待できること
②デジタルマーケティングへの取り組み手順
・ターゲット顧客と、ターゲット顧客の購買行動フローを洗い出すこと
・各購買行動のフェーズで、トリプルメディアのうちどれを活用するのが効果的か、ターゲット顧客の購買行動から考えること
・実施施策に優先順位をつけること

 デジタルマーケティングの分野では、メディアプランニング、HPやSNSの制作運用、コンテンツ制作、Web広告の出稿と分析、顧客データ分析など、実施段階では様々な知識が必要となります。
 もちろん、経営者や従業員自身で勉強して始めていただくことも可能ですし、今はかなり質の高いものを自前で作ることができる環境も整っています。
 しかし、デジタルマーケティングの領域は日進月歩で新しい技術が生まれており、多忙極まる経営者や現場で働く社員の力だけではどうしても対応できず、競合に先を越されてしまうこともあります。
 そんなときは、私たち中小企業診断士にご相談ください。当協会では、IT導入やマーケティングに精通したスペシャリストが豊富な専門家ネットワークを築いています。また中小企業診断士の強みとして、ITという視点のみならず、企業経営のゼネラリストとして戦略、財務、人材育成といった幅広い視点から最適なデジタルマーケティング施策のお手伝いをさせていただきます。
 今後さらなる収益性の向上を目指したい経営者の方は、まずはお気軽にご相談ください。

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≪執筆者紹介≫
白井 康嗣(しらい こうじ)
「企業の持続的な利益向上の仕組みづくりと運用」をテーマに、戦略策定、組織活性化、人事制度設計、会議の生産性向上、管理会計導入などを支援している。白井経営コンサルティング事務所代表
(HP:https://shirai-consulting.com/
白井 康嗣
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