経営者の方へ「販路拡大の方策:サービスを売る」
サービスを売る
1.サービスとは?
「サービスを売る」という言い方をすると、サービス業向けのお話と捉えられてしまいがちですが、果たしてそうでしょうか?
何かを「売る」にためには、買ってくれる人に「売り物」を説明する必要があります。
砂糖や塩のように説明不要の物もありますが、大半は買う側にそれが「何か」を説明する必要があります。
物の価値を相手に理解してもらうためには、価値を説明する「サービス」が必要です。
ここでは、「サービス」って何なのかを紐解きながら、売り方を考えていこうと思います。
2.サービスの性質
世の中には至る所にサービスが存在します。まずはサービスを分類してみましょう。
(1)サービスの分類
マーケティングの大家、フィリップ・コトラーはサービスを以下のジャンルで分類しています。
①いわゆる「物」(純粋な有形財)
砂糖や塩、小麦のような素材で、名前で買う側がイメージできる物です
②若干のサービスを伴うもの(サービスを伴う有形財)
自動車、パソコンのように機能が高度化するほど、付随するサービスが必要です。
③サービスと物の混合タイプ
外食産業のように素材を加工=サービスするタイプです。
④サービスを提供するためにインフラを使う(有形財を伴う)タイプ
鉄道や航空、電気のようにサービスを提供するためにインフラを所有する産業です。買う側が受け取るのはサービスであって素材ではありません。
⑤純粋にサービスのみ(純粋サービス)
医者やマッサージ、我々コンサルタント業もこれにあたりますね。
皆様のお仕事はどれになりますか?
①のような商品は、買手は買う前に情報をある程度入手できています(塩はしょっぱくて砂糖は甘いとか)ので、それを買った経験があれば商品の良し悪しの判断は可能です。
一方で⑤のように純粋なサービスは、買手が実際にそれを体験するまで質を判断できませんので、事前の十分な説明と、他の人の評判(=口コミなど)から判断する必要があります。
図1 塩とサービス業の、素材とサービスが価値全体に占める割合
(2)サービスの特性
今度は、サービスの持つ特性について考えたいと思います。
こちらもフィリップ・コトラーから引用し、物とサービスの違いを明らかにします。
①無形財:
有形の財と違って、サービスは事前に見ることも味わうことも聞くことも触ることもできません。マッサージを受ける前に、受けた後の爽快感は決して味わえないのです。
②不可分性
サービスは生産と消費が同時に行われます。サービス提供者とサービスは分けられません。松任谷由美さんのコンサートを松任谷正隆さんがやることはできないのです。
③変動性
サービスの質は、提供する人や場所、時間によって大きく変動します。感情の激しい「おやじさん」の機嫌で提供サービスの質が乱高下するのはお分かりかと思います。
④消滅性
サービスは蓄えておくことができません。旅行の添乗サービスを保存し、後で添乗してもらうことは不可能です。
これらの弱点を克服するために、コンサートを動画で配信したり(不可分性と消滅性の克服)、ロゴやシンボルマークを作ってみたり(無形財の克服)、業務マニュアルを作ってみたり(変動性の克服)して、サービスの質の均一化を図る努力をしています。
3.サービスの特性を生かしたサービスの売り方
では、サービスを売っているいくつかの事例から、サービスはどんな風に売られているのか考えてみます。
①塩事業センター(旧専売公社)の塩㋐と小笠原の塩㋑
サービスの「量」を比較するために、一般的な塩とブランド塩を比較します。
物質としての塩の機能は、㋐と㋑でほぼ変わりありませんが、風味や見た目のちょっとした差異が㋐と㋑に存在します。(図2)
この差異をサービスとして説明することで1Kg149円の塩(塩事業センター)が100g400円の塩(小笠原の島塩)になります。
塩事業センターのは単に塩を売っていて、小笠原の島塩はサービスも併せて売っていることになります。
図2 塩専売公社の塩と小笠原の島塩
②トンネル探求家と行く静岡の旅
静岡には東海道線の旧線跡で現在は使われていないトンネルがいくつか存在します。
このトンネルですが、古くなったので現在は使われていませんが、この「ウンチク」に着目した「トンネル探求家」が、トンネル完成までの歴史や掘った人々の想いなどを語るツアーを組むと、立派なツアーとなります。
このように、サービスとは目の前にある物やコトをなるべく多面的に捉えて、そこに新しい価値がないか、常に考えることから生まれます。
サービス業の最たるものである「中小企業診断士」は自分の価値を大きくするために、図1の円を少しでも膨らまそうと努力しています。ですので、皆さんのお仕事を我々診断士が拝見すると、もしかしたら、皆さんが見えていなかった新たな価値を見つけられるかもしれません。
4.サービスとコミュニケーション
先ほどお話した「塩」の事例では、買う側の受け取る価値が「サービス」のお蔭で大きくなっています。
図3 塩の持つ価値
買う側に隠れていた、「美味しい塩」を食べたいという買い手の潜在意識を引きだせたので、塩事業センターの塩と比べて、塩が持つ価値が大きくなっています。
買い手の潜在意識を引き出すためには、買い手のことを知る必要があります。
賢明な皆様はすでにお気づきと思いますが、サービスとコミュニケーションは、同じものです。
買い手とのコミュニケーションがない状態では、売り手は「作るためにかかった費用」+「自分が生活するために必要な利益」を価格として設定します。
コミュニケーションがあり、買い手が「払っても良い」と思える価値(値段)を聞き出す(引き出す)ことによって、「作るためにかかった費用」+「自分が生活するために必要な利益」+αの価値を見出すことができるのです。
5.さいごに
商人の街大阪には「あかんでもともと」という言い方があります。
臆せず、明るく、「あかんでもともと」で、買い手とコミュニケーションしながら少しでも自身の価値を高める事こそが、サービスを売ることにつながることになるのだろうと思います。
勇気をもって笑顔で、じゃんじゃん「吹っ掛けて」サービスを売ってみましょう。
(吹っ掛けすぎて嫌われないように注意しましょう。。。自戒の意味を込めて)
もし、サービスの売り方にお悩みであれば、三多摩支部ホームページの以下の会員紹介のページをご活用いただければ幸いです。様々な分野の専門家がお手伝いいたします。
https://www.santama-smeca.jp/memberinfo
≪執筆者紹介≫
新堀 毅(にいぼり たけし)
大手旅行代理店出身。在職中は旅行営業、経営・IT企画、企業内ベンチャー創業、運営、事業清算に従事。独立後は観光業の業務効率化・販売促進を支援。
旅行業時代のACCESS開発経験を駆使し製本会社工程管理システムも開発。
2019年中小企業診断士登録。
ホームページ https://niibo.jp