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経営者の方へ「攻めと守りのIT活用:業務プロセス効率化とIT」

2021-03-13

業務プロセス効率化とIT

 「生産性を向上したい・仕事を効率化したい」、業種を問わず大きな悩みの一つです。 多様な対策が考えられますが、代表格の一つに「業務プロセス(手順)の改善・効率化」があります。
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 例えば、サービス業などでよくみられる「人によって仕事のやり方が異なる」ケースに対して、「最も効率的な方法に統一」する対策がありますが、これなどは業務プロセスを改善して効率化する典型です。製造業であれば、ムリ・ムラ・ムダやカイゼンは「耳タコのセリフ」だと思いますが、これも仕事のやり方を工夫する業務プロセス改善に繋がります。
 ここでは、業務プロセス効率化の「進め方」と「役立つITツール」をご紹介します。

「業務プロセスの効率化」はどうやって進めるの?

 業務プロセスに着目した改善手法は、何十年も前から数多く提案されてきています。従業員が知恵を出し合い問題を解決する“カイゼン”や、品質改善サークル活動で品質向上を目指す“QC活動”もその一つです。個々の説明は割愛しますが、他にもTQM、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)、6σ(シックス・シグマ)など様々な考え方や手法があります。
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 では、どの方法を選択して、どのように具体化すれば良いのでしょう?
最も良いのは、オーダーメイドのスーツのように、例えば私達、中小企業診断士のような専門家に相談しつつ、御社に合った手法を選択して改善を図ることです。
それが難しいのであれば、BPM(ビジネスプロセスマネジメント)という考え方をお勧めします。 業務プロセス全体を意識しながら、プロセスの「(小さな)改善を継続」していこうという手法です。

 下図は、そのイメージです。まずは業務プロセスを「見える化」して、改善すべき点を抽出します。そして、改善の仕方を考え、実行します。

BPMのイメージ
図1 BPMのイメージ

 重要なのはこれから先で、「『きっとこのプロセスがこの位改善するだろう』という思惑どおりになっているか」観察します。そして、思った通りにいかなければその原因を分析し、結果がよければさらに改善すべき点を抽出し、改善案を検討し、実行して、…を繰り返すわけです。

中小企業の業務プロセス見直しは?

 御社では、業務プロセスの見直しを実施していますか?効果は得られましたか?
 中小企業白書2018によれば、9割近くの中小企業が何らかの業務プロセスの見直しに取り組んでいます。また、見直しに取組んだ企業の半数以上は効果を実感しているようです。
 具体的な取組は図2のとおりです。棒グラフの左から順に、「標準化・マニュアル化」、「不要業務・重複業務の見直し・業務の簡素化」、「業務の見える化」、・・・の順となっており、これらが中小企業で実施されている改善策の定石のようです。

業務見直しの具体的な取組
図2 業務見直しの具体的な取組(中小企業白書2018)

 「見える化」は、先ほどご紹介したBPMの最初の一歩となりますので、課題抽出⇒対策検討・実施⇒観察…と継続すれば、より大きな効果が得られるかもしれません。
 ちなみに、有名な改善策の検討手順にイクルスという考え方があります。「止める、まとめる、入れ替える、簡素化する」の順に改善効果が期待できるというもので、「不要業務の…」は、この観点からも効果が期待できそうです。

プロセス改善に役立つITツール

①身近なツールを活用する
 「IT」を難しく考える必要はありません。日頃使っているスマホやLINEでも十分に役立ちます。
 政府が平成29~30年に開いた「生産性向上国民運動推進協議会」という会議で紹介された宿泊業の事例では、下図のようにタブレット端末とLINEで作業効率が改善されたそうです。

第2回 生産性向上国民運動推進協議会資料より
図3 第2回 生産性向上国民運動推進協議会資料より(2017年)

 社員のスケジュール管理や会議室予約などができるグループウェアと呼ばれるシステムも有効です。専用のシステムでなくとも、グーグルカレンダーのように、グーグルやLINEをこのような目的で活用している企業もあります。

②申請、決済などの流れをスムーズにする「ワークフロー」
 先ほどご紹介した中小企業のプロセス改善策にも「重複業務の見直し」がありました。実際に企業にお伺いして従業員の方々と業務プロセス分析をすると、「手順のダブり」、「多重チェック」や「重複承認行為」等が「“あるある”な課題」として出てきます。
 プロセスを見直してスッキリとした流れにする際に役立つのが、「ワークフロー」というツールです。
 ワークフローは、申請や承認などの流れを電子化するもので、従業員や幹部職員のパソコン上で仕事を進めていきます。申請書類のフォーマット作成、手続きやプロセスの設定、決済処理、書類の整理・検索などの機能があります。(ワークフローの機能を持つグループウェアもあります)

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③柔軟性の高い「業務アプリ」
 スマホでアプリをお使いではないでしょうか。宿泊業の事例で取り上げたLINE、動画のYouTube、地図等です。このアプリ感覚で自社オリジナルの業務プロセスに沿ったシステムをつくるのが業務アプリです。日報・勤怠の管理や顧客データベースとの連携等、様々なことができます。(①、②も含めて業務をIT処理するもの全てを業務アプリと呼ぶこともあります)

④単純繰り返し作業を自動化する「RPA」
 日本では2016年頃からブームとなっているITツールに「RPA」というものがあります。Robotics Process Automation の略で直訳すると「ロボットによる(業務)プロセスの自動化」です。「人がパソコン上で行う操作をなぞる」ことができます。例えば、エクセルを開いて計算し、社内ソフトにログインしてからエクセルの結果を社内ソフトにコピペする、といった一連の作業を人の代わりにやってくれる便利なソフトです。パソコンで行う単純繰り返し作業などに向いています。

⑤AI,IoTなどなど
 企業によっては、売場での販売情報を自動収集するPOS(販売時点情報管理)、手書き文書のデジタル化を進めるためのOCR、あるいはAIやIoTとの連携が適しているケースもあります。さらには、前述のBPMをそのままシステム化したBPMSや、パソコンの履歴から自動的に業務プロセスを生成し、課題をあぶり出すプロセスマイニングというツールまで、多種多様なITツールがあります。

ITツール導入の留意点

 ITツールにより業務プロセスの一部が自動化されたり、手順の抜け漏れがなくなったりと、大きな効果が期待できます。もちろん、導入に際して気を付けなければならない点もあります。

●導入後の「運用・管理」まで考えること
 業務プロセスは「生き物」です。経営環境が物凄いスピードで変化するなか、既往プロセスの継続改善や、新事業のための新たなプロセス構築が求められます。当然、ツールも導入時にセットした内容を変更していかなければならず、導入後に「誰がどのように運用・管理するか」は、大きなポイントです。
 ITベンダー等に全てお任せにすることは人材不足のなかとても効率的ですが、課題もあります。ベンダーロックインと言いますが、特定企業に任せきりにしてしまうと、何をするにもその企業に頼らざるを得ない状況となりかねません。社外への外注や社員の育成も含めて、具体的な体制を考えましょう。

●経営全体の視点から改善の方法を考えること
 華々しい成功事例が紹介されるRPAは、一方で、「導入企業の半数は失敗」とも言われています。過剰な期待、目的と手段の逆転等が大きな原因です。「手段であるITツール」の導入前に、実現したいこと、資金や人材といった経営資源の状況、等々を踏まえて作戦を立てることが大切です。
 BPMの観点から改善ターゲットを定め、業務を見える化し、不要・重複業務の見直しなどの打ち手を検討しましょう。併せて「運用・管理体制」も勘案の上で積極的にIT活用を検討してみてください。
 迷いや悩みがあるならば、地元の商工会議所や商工会に相談してみることも有効です。無料相談窓口や中小企業診断士等の専門家派遣、補助金案内などの支援策が用意されています。
 先ずは「業務の見える化」にチャレンジしてみませんか?きっと、たくさんの”気づき”が得られます。

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≪執筆者紹介≫
千葉 俊彦(インテグロ中小企業診断士事務所)
中小企業診断士/技術士/事業承継アドバイザー/健康経営エキスパートアドバイザー
都市・交通計画のコンサルタントとしてバスタ新宿等のプロジェクトに従事。企画畑に異動し新事業開発の責任者等を経て役員となり、経営全般を10年超にわたり実践。逆風下の買収企業立直し等、成功も失敗も数多く経験。経営者の悩みを共感できる“企画系なんでも屋”のキャリアを活かした診断士。「会社を元気にする地に足のついた実践的なアドバイス」が信条。(HP:https://www.integro-mco.com

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