為替先物予約におけるヘッジコストの意味するところ
三多摩支部国際部
岩橋健治
「新興国通貨建て為替は、ヘッジコストが高いからヘッジしない」(某輸出企業)
「現地通貨建て借入は、金利が高いから本社から円建て借入をしている」(某海外子会社)
よく耳にする話です。このように為替と金利を分けて考える人は結構多いようです。しかしそれは間違いです。「安い金利で資金調達し、為替リスクもとらない。」なんてうまい話は絶対にありません。
先物為替予約の性格(直先スプレッドの意味=金利差)の再確認
本来、為替リスクがない状態とは、資産・負債が同一通貨、あるいは売上・売上原価・販管費などのコストが同一通貨である状態です。海外現地法人により地産地消状態になると、そのような状態に近くなるわけです。
先物為替予約は、資産と負債の通貨が異なる場合に、実質同一の通貨にするための手段と言えます。このため、外貨建て資産について考える場合
・売掛金:金利が付かない資産でありそもそも保有コストが発生する。(ヘッジするからコストがかかるわけではない。)
・先物為替予約:直物為替取引+期日までの資金調達(及び運用)のセット取引
である点の再認識が必要です。
先物為替レートは直物為替レート+直先スプレッド(支払金利と受取金利の差額 *注)+銀行手数料ですが、上図は先物為替予約取引をお客様と行なう水面下で銀行が市場でどういったヘッジ取引を行っているかを図示したものです。
水面上では受渡日における先物為替予約取引の決済しか見えませんが、実は銀行は水面下で、直物為替市場における為替取引の他に、期日までの資金調達(及び運用)の2種類の取引を行っています。
銀行は水面下で行っている資金市場でのドル支払金利と円受取金利の差額だけを、直先スプレッドとして先物為替レートに織り込んでお客様に提示しているわけです。
すべて為替レートに織り込んでしまうことから、支払金利も受取金利も会計上為替差損益として表現されてしまいます。中間作業が自動化されて見えなくなってしまい、その意味が忘れられてしまうのと同様に、「外貨建売掛金をヘッジすれば為替差損とされるコストがかかる」「直物為替レートより、先物為替レートは悪い」との誤解を招く一因になっているかもしれません。
先物為替予約による為替ヘッジはあくまでも直物為替レートでのヘッジであり、それに、資金取引による支払(受取)金利差額を一括で精算する仕組みがセットになっていることの意味を再確認してください。「資金負担しているから支払金利がかかるのは当然」という理解をすれば、輸出企業のヘッジ期間の長期化の一助になるかもしれません。逆に輸入企業においては、外貨預金運用による受取金利相当が、当該全期間分一括で受け取れるように見える仕組みになっていることから先物為替レートがかなり良く見えるため、長期の先物為替予約類似の取引を行っているケースが見られますが、上記の理解をすれば、価格転嫁スピード以上の長期間のヘッジ取引を見直すきっかけになるかもしれません。
*注:厳密にはべーシスコストと呼ばれる銀行の自己資本規制強化に伴い付加される資本コスト相当が加味されます。