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GAP(Good Agricultural Practice)の普及

2021-06-13

三多摩⽀部 国際部
安藤 孝政
(ASIAGAP審査員)

2013年、IOC総会で東京オリンピック開催が正式に決定して以来、農業・食料分野ではGAP(Good Agricultural Practice)の認知度が急速に拡大しています。その理由の1つに、オリンピックの選手村で調達する食材はGAP認証農産物であることを条件としたためです。GAPは「農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組」であり、「農業生産工程管理」と訳されています。分かりやすく言うとHACCPとISO9001の考え方を農業経営に当てはめたものです。作目にもよりますが、100項目以上の管理点を満たし、審査に合格するとGAP認証が認証機関より与えられます。

出典:農林水産省

アメリカ、EU、アセアン、南米などGAPの取組は世界中で行われています。世界の主流はグローバルGAP(GGAP)というEUを起源としたGAPですが、日本国内向けでもJGAPが普及しています。日本のGAP(農産物)は大きく分けて青果物、穀物、茶に分類されています。JGAPを世界基準に適合させたものがASIAGAPとなります。JGAPとASAIGAPの主な違いは、HACCPベースの考え方、食品防御対策、食品偽装対策、仕入品・サービスの評価等が追加されたことです。現在のところ、JGAPには家畜・畜産物と農産物の2種類の認証制度ありますが、ASIAGAPは農産物のみです。

 

出典:日本GAP協会

2021年3月の時点でASIAGAP審査員は日本国内に約30名のみです(審査員と上級審査員の合計人数)。筆者は2020年にASIAGAP審査員となり、農場のASIAGAP認証のお手伝いをさせていただいています。審査時に様々な農産物の生産状況を各農場で直接確認できることは、現場を知るうえで非常に良い経験になります。土壌・水管理、農薬・肥料管理、燃料管理、廃棄物処理、労務管理、品質管理、人材育成、機器保守管理、顧客管理、安全対策等は作目や経営体が異なれば、違った特徴が見らます。稲作、茶、キノコ、果樹などを単純に頭に思い浮かべただけでも、生産方法、管理方法が異なってくることは容易に想像がつきますし、法人経営か家族経営かでも、法律の適用範囲などが変わってきます。
筆者は東南アジアのベトナムやミャンマーでのGAPの取組について、話を伺うことがあります。日本の取組と比べ、レベル感は劣ると思われますが、東南アジア諸国でも、農家レベルで食品安全、環境問題、農業経営の改善が注目されているのは好ましいことです。将来的に、ASEANGAP認証の農産物が日本のスーパーに並ぶ日が来るかと思うと、GAPの普及成果が出たと言える半面、日本の農産物市場での競争が激化することになり、複雑な印象を受けます。
今年(2021年)に食品製造業や飲食業にHACCP義務化が適応されますが、農場は対象外です。東京オリンピック後にGAPの潮流が下降しないかという不安要素があります。生産から消費までの食品の安全なサプライチェーンを考慮した場合、HACCPとGAPの協働が今後も求められていくと思います。

参考情報
日本GAP協会HP:https://jgap.jp/
農林水産省GAPの情勢:https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/g_summary/attach/pdf/jyosei.pdf

以上