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カンボジア王国初等科芸術教育支援事業 (JICA:草の根国際技術協力事業)

2021-07-04

三多摩支部国際部
櫛田正昭

1.はじめに

ちょうど7年前に、このコラムで「対カンボジア国際協力」というタイトルで日本の対カンボジア国際経済協力の話を書かせていただきました。東京協会のワールド・ビジネス研究会(WBS)と中小企業診断士が多数集まる株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ(WBA)が共催で派遣したラオス・カンボジア海外事業調査団に、三多摩支部から徳久さん、杉浦さん、永吉さん等と一緒に参加した後、調査報告書のダイジェスト版としてまとめたものでした。
あれからもう7年、月日の経つのが早いと思うと同時に、中国の当該地域への影響力はますます強まり、世界の状況も随分変わってきました。言うまでもなく最近ではCOVID-19が各国へ政治的・経済的・社会的に様々な影響を与えています。

そしてこの間に、個人的には、友人から、カンボジアで活動する「JHP・学校をつくる会」という認定NPO法人(特定非営利活動法人)の監事就任の要請を受け、カンボジアとの新しい縁ができました。仕事の関係で日本の某アパレル系メーカーがチャイナプラスワンを実行して製造工場を中国からカンボジアにシフトすることに関与したりしました。
前回は日本の国際経済協力全般の話になりましたが、今回は、この認定NPO法人「JHP・学校をつくる会(以下JHPと略します)」のカンボジアにおける活動の一端をご紹介し、日本のNPOが、所謂人道的支援で活躍をしている事例を具体的にご紹介してみたいと思います。

2.カンボジアの子供たちに対する教育支援活動

ご承知の通り、カンボジアは第2次世界大戦終了後独立を果たしたものの長く紛争に巻き込まれ、特に1975年に成立したポルポト政権の下では、多くの国民が命を失い、国土は荒廃しました。国民の多くは食べていくのが精いっぱいで満足に学校に行くこともできず、また学校の校舎は戦火で破壊され、教育者の養成にまで手は回らず、教育の水準は極めて低くとどまらざるを得なかったのです。

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国名 カンボジア王国
独立 1953年11月(フランスから)
言語 クメール語(96.3%)
人口 16.3百万人
面積 18.1万平方キロ(日本の1/2)
首都 プノンペン
宗教 仏教(96.9%)
政体 立憲君主制
GNP 1,485米ドル/人

<出典:外務省ウェッブサイト。2018年IMF推定値で修正>

2-1 NPO「JHP・学校をつくる会」
当会の代表小山内美江子は、TBSのテレビドラマ『3年B組金八先生』やNHKの大河ドラマ『徳川家康』『翔ぶが如く』等の脚本家として有名ですが、1990年の湾岸戦争後のヨルダン難民キャンプに出向いて初めて海外ボランティアを経験しました。当時「顔の見えない日本人」と非難されたことが行動の原点にありました。その後、活動をカンボジアに絞り、俳優二谷英明らと共に、カンボジアのタイからの帰国難民救援に汗を流しました。その時学校建設の必要性を痛感し「カンボジアのこどもに学校をつくる会」を設立し(1993年)、2000年にはNPO化しました(会の名称を「JHP学校をつくる会」に変更。JHPは「Japan Team of Young Human Power」の略です)。JHPの行動基準に「地球的視野を持って活動します」、「社会的に弱い立場の人々の自立を支援します」とあるのもそういうバックグラウンドがあるからです。
そして以下に述べるような国際的な人道支援事業を28年にわたって行ってきています。
多くの人がJHPの運営に携わり、理念を少しでも実現しようと努力し、そして後続の人たちに引き継いでいくということで会を継続してきています。私も個人的には、バトンを一旦受け取り、これを後継の方へ引き継ぐのだと考え、今、監事という役割を担っている次第です。

2-2 JHPの学校建設事業
pic2JHPにとっては創設以来力を注いできた原点と言える活動・事業です。カンボジアでは長い戦火の結果、学校教育の施設は極めて貧弱な状況にあり、また人口の急増もあり、学校の校舎は絶対的に不足してきました。校舎と言っても風雨をしのぐのがやっとといった状態であり(老朽化したものが多い。また木造・トタン造りで雨の時騒音がひどい。)、基本インフラの水・電気も不十分、トイレも不足して不衛生な状態なところが大部分だったのです。
日本で、カンボジアの小学校建設に賛同していただける方から資金を募る一方、現地の関係者(州や郡の教育局等)と協議しながら調査し、建設する場所(村)、建物の仕様等を決め建設を進めるということを繰り返し行ってきました。

pic3直近の2020年度で言えば、コロナの中ではありましたが、カンボジア5州に小・中学校5棟19室、校舎補修1棟5室、トイレ3棟8室、給水設備1基、手洗い場4基、を建設し、総受益者は生徒3,549名、教員106名と報告されています。
1993年から現在までカンボジア国内でのJHP関与の校舎建設数は362棟(建屋数)となりました。カンボジア教育省の統計では公立の小・中・高港は9,073校ということで、その中でJHPは291校(約3.2%)の支援に携わってきたということになります。
JHPの現地カンボジア事務所はこのような調査、調整の外、贈呈式、ドナーの視察アレンジ、交流会、ボランティア活動支援などの活動を行っています。日本人駐在3名を含み合計11名体制で運営されています(2021年4月現在)。

2-3 JICAの「草の根技術協力事業(草の根パートナー型)」に採択された「初等科芸術教育支援事業」
pic4カンボジアでは音楽・美術教育は、教育課程の中で独立した科目ではなく「社会科」の一部として位置づけられていました。これを独立の教科として取り扱うこととなった時に、カンボジア教育省内で芸術教科の教材・人材の開発が急務となり、JHPはカンボジアにおける芸術教科カリキュラムの開発を提案、2016年3月にJICAの草の根技術協力事業として採択されることになりました(事業費概算額:約80百万円)。
5年間の実施期間にカンボジア教育省と共に行う活動は次の4つです。

1.小学校の芸術教育の普及に責任を持つ教育省の職員を育成する
2.小学校の芸術教科のシラバス(日本の「学習指導要領」や「指導計画案」にあたるもの)、生徒用の教科書、教員用の指導書を作成する。
3.州レベルのトレーナーを育成するための教育省内のトレーナーを育成する
4.トレーナーを育成するための研修プログラムを作成する

pic5この後、5年間、日本側専門家の選定から始まって、専門家の派遣(芸術教育を専門とする日本の大学教授等)、カンボジア研修生の受け入れ、分科会の設置、初等科芸術教科の生徒用教科書及び教師用指導書づくり、トレーナー候補の研修等を重ねてきました。コロナ禍の影響を受けながらも、今年を最終年として、現在まとめの活動(教科書・指導書の完成、教員研修、パイロット事業=トライアル授業の実施等)に入っています。
JHPの現地事務所は、現地で様々な組織・団体とのネットワークを築きながら、プロジェクトの円滑な実施に注力しています。

2-4 このほかのJHPのカンボジア関連の活動
紙幅の関係で詳細には述べられませんが、このほかに以下のような活動を行っています。pic6
1)音楽・美術教育フォローアップ事業
過去の対象校での美術・音楽の授業や活動の継続支援事業。イベント開催支援、画材寄贈、楽器寄贈等。
2)孤児院運営の支援事業
孤児院設立の際、施設建設で協力。運営費、教材提供、研修機会提供等で貢献。
3)成人識字教育事業
カンボジアでは、内戦、恐怖政治、貧困等が原因で就学年齢時に学校に通えず、字を読めない成人が多数存在します。これらの人に夜学で、文字の読み書き計算を教えようとする事業。識字教員の要請も含む。当面100名対象で学校を運営。
パナソニック(㈱)の企業市民活動団体からソーラーランタンの寄贈を受け、夜間授業が可能となっています。
4)ボランティア派遣事業
年1回主に日本の学生をボランティアとしてカンボジアに派遣。活動内容は校舎補修、遊具施設(ブランコ等)建設、プロジェクト見学等。ボランティア活動を実体験。参加者は、高校生、大学生、社会人を想定。2020年は残念ながら、新型コロナウィルス感染の影響を受け、中止。

2-5 NPOの運営
最後に、上でお話ししたようなボランティアベースの国際協力NPOが経済的にどのように維持・運営されているのか少し触れておきたいと思います。この辺りはそれぞれの団体によってさまざまな形があると思います。大スポンサーによって安定的な資金調達のパイプを確保しているところ、理念に賛成してくれる一般市井の方々からの厚意の寄付に頼っているところ、マスコミが取り上げ大規模な募金活動により集金し事業を行うところ、政府・地方公共団体の支援に依存しているところ等々様々と言えます。
JHPの場合は、創設者の熱い思いに共鳴した人々の輪が広がり、資金はほとんどそういう人たちからの寄付で賄われてきています。開発途上国の貧困な環境下の子供たちのために、校舎を贈呈・寄付したいという篤志を持たれた、一般の方々、大手・中堅・中小企業経営者・従業員、学生からの決して大きくない額の寄付の積み重ねが主体です。
篤志家からの寄付、各種助成金の外に、書き損じはがき・未使用切手の収集換金、バザーの開催、チャリティコンサート(天満敦子によるバイオリン演奏会)開催などで収入増に努めています。事業の規模としては、JHPの年間の経常収入はここ数年約1億円/年レベルで推移しています。

最近の事例で大変ありがたかったのは、ある方から遺贈を頂戴したケースです。身寄りがなく財産をお持ちだった方が遺言をしてJHPにその財産を託されたのです。JHPとしては、ご遺志に沿い、貧困な状況にある開発途上国での恵まれない子供の教育のために最善の力を尽くしたいと改めて誓ったところでした。
こうした理解者の輪を広げるには、理念に沿った活動自体が一番重要なのは当然なのですが、理解を深めていただくための広報も大切で、より知っていただくための努力を続けています。

3 結び
中小企業診断士として、日本が国際化していく過程で、種々の関与する場があります。日本企業の海外展開に際しての、事業計画策定・マーケティング・現地法人経営・知財管理等々に関する助言、そしてインバウンド関連事業での各種の支援、日本に進出してくる海外企業へのアドバイス、JICA・JETRO等の国際協力プロジェクトでのアドバイザー・専門家としての活動等々枚挙のいとまがありません。私自身も、個別企業助言の外、JETROの輸出プロジェクトのエキスパート、JICA案件のセミナー講師をつとめたりさせていただきました。今回ご紹介したのは、海外人道支援NPOの活動報告ですが、わたくし的には、NPO理念遂行のために必要な管理インフラ維持のため、中小企業診断士としてのノウハウ・知見を活かし、縁の下でNPO運営にもうしばらく貢献できればと考えているところです。

<認定NPO法人 「JHP・学校をつくる会」>
ホームページ: https://www.jhp.or.jp
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