世界への扉を開く日本発スタートアップ支援
三多摩支部 国際部
野口紀彦
1: スタートアップのマクロ環境
大変残念な事実ながら、バブル崩壊後「失われた30年」の間に日本の国際競争力は大きく低下してしまいました。企業時価総額の世界ランキングにおいては、平成元年には上位20社のうち日本企業が13社を数えましたが、平成31年には上位20社に日本企業は1社もありません。その間、米国シリコンバレー発のGAFAに代表されるITスタートアップがランキング上位に多数登場したのはご存じの通りであり、2021年8月にはGAFAの時価総額が日本株全体の時価総額を超えるというニュースに大きな衝撃を受けました。
GAFAの中でもGoogleとAmazonは1990年代に、Facebookに至っては2000年代に登場したスタートアップです。この4社以外にも、テスラやUber、YouTube など、日本でも既に日常生活に深く入り込んでいる多くの企業が日本の「失われた30年」の間に産まれて各国経済に大きな影響を与えています。このため近年では、欧州諸国や中国・韓国・台湾・シンガポールなどアジア諸国においても、国を挙げてスタートアップを創出する支援が積極的に行われており、その結果として世界市場を目指すスタートアップが各国から続々と誕生しています。
各国のスタートアップ育成状況の目標指数として良く使われるのがユニコーン企業数です。ユニコーン企業とは評価額が10億ドル以上(1ドル115円換算で1150億円)、設立10年以内の非上場のスタートアップを指します。2021年7月時点において、世界のユニコーン企業数は750社、そのうち米国が50%、中国が20%以上を占めており、日本は6社、約0.8%というこちらも残念な状況にあります。
2:日本におけるスタートアップ支援状況
このような状況に対して日本政府も大きな危機感を持っており、日本発のスタートアップを産み出すための施策が近年数多く実施されています。中でも経済産業省が2018年から開始したスタートアップ育成支援プログラム「J-Startup」は代表的な存在で、「世界で戦い、勝てるスタートアップ企業を生み出し、革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供する」ことを目指しています。「J-Startup」は、経産省傘下のJETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が具体的な支援実施組織となり、各種税制優遇、補助金、政府調達案件の解放などの経済支援の他、『J-Startupツアー』『ジャパンパビリオン』などの各国展示会への参加支援、『ILS』などのスタートアップイベントの開催など、世界的なスタートアップを産み出すための様々な形での支援を行っています。
さらに2020年11月からは、「J-Startup」の地域展開が始まり、北海道、東北、関西、セントラル(中部)の4つの地方事務局において、各地域の有望なスタートアップ企業に対しての集中的な支援が行われています。
しかしながら、現時点では世界市場を目指して羽ばたいていく日本発のスタートアップは極めて限定的です。その理由として、ベンチャーキャピタルなどからスタートアップへの出資金額が、日本ではまだ約3,000億円程度で、米国の約15兆円と比べて圧倒的に少ないことが挙げられています。同時に、言語や文化の違いによる日本市場の閉鎖性から日本市場に入ってくる外国発のスタートアップが少ない中で、日本発のスタートアップの創業者の多くは英語による異文化との交流が得意では無い実状もあって、結果として日本発のスタートアップは日本市場のみに留まりがちとなるガラパゴス的な事情があります。
また全般的な傾向として、日本のスタートアップは技術やアイデアは世界のスタートアップと遜色がなくても、PR力やマーケティング力が大きく不足している傾向が強い他、組織形成や資金調達などの経営力にも様々な課題がある傾向にあります。このため事業拡大スピードが遅く、世界市場で各国発のスタートアップに対抗するだけの実力を持ちえないのが実状と考えられます。
3:国際派中小企業診断士によるスタートアップ支援の可能性
さて、ここまでに見て来た世界と日本のスタートアップ事情の大きなギャップに対して、中小企業診断士としても様々な支援チャンスがあるのでは無いかと考えますが如何でしょうか。特に、中小企業診断士の中にはかつて企業勤務されていた時代に様々な世界市場において様々な専門性で活躍されてきた方も多く、このような診断士の方々の実務経験や経営支援力、さらには語学力や行動力は、スタートアップ企業にとって必要なものばかりではないかと感じています。
またかつて世界市場でご活躍されていた診断士の皆様にとっても、日本市場だけに留まっての支援活動よりも世界市場を目指すための支援が、さらには経営改善的な支援よりもこれから未来に向かって大きく羽ばたいていこうとする大志のある企業の支援に魅力を感じる方も多いのでは無いかと推察します。
中小企業診断士活動における世界を目指すスタートアップ支援はまだまだ「未開拓市場」であり、その支援機会は現時点では限定的であると思いますが、日本に再びかつての輝きを取り戻すための一助ともなる志をもって、今後有志の皆様と一緒に取り組ませて頂けましたら幸いに思います。
<参考資料>マテリアルマガジン
https://materialpr.jp/recruit/materialmagazine/view/23/