21世紀は「水の世紀」ということをお忘れでは?
三多摩支部国際部
高取宏行
新年あけましておめでとうございます。
21世紀も20年が過ぎました。これから残り5分の4が始まります。昨年後半は原油価格が急騰するなど、原油価格の話題でにぎわいましたが、「20世紀は石油の世紀、21世紀は水の世紀」と言われています。これは世界の紛争が、原油を求めた紛争から、水を求める紛争に移ってくることを意味しています。水をめぐる紛争はゴラン高原をめぐるイスラエルとシリアの領有権争いや最近ではナイル川上流に位置するエジプトのダム建設をめぐる下流側のスーダンやエチオピアとの対立などが有名です。
私は今年7月で65歳になり今勤務している会社も任期満了で晴れて退社となります。製鉄、石油化学、製紙工業などを縁の下で支える鋳鋼(鋼の鋳物)事業を18年、その後、膜で排水処理を行う事業に1999年から22年かかわってきました。ちょうど石油の世紀から水の世紀に移行するときに所属する事業も動脈産業から静脈産業へと異動となりました。これは偶然の一致ですが、ちょうど時流に一致した形となりました。
コロナ禍、在宅勤務となって2年が経ちました。運動不足解消に自宅周辺を毎日ウォーキングするのですが、近くの川や農業用水路の投げ捨てられたごみの散乱や側溝に流れ込む汚水等を目にすることがあり、その光景に心を痛めております (三多摩地区ではありません)。市役所の河川課に「近所の用水路にごみが投げ捨てられ、美観が損なわれるし、不衛生だから、清掃してほしい。」とメールしました。さすがに、翌朝電話がありました。ただし、その農業用水路は担当ではないとの事でしたが、担当の県直轄の団体にメールの転送と清掃の予定の確認をしてくれました。残念ながら、清掃予定は通水前の3月頃とのことで、汚いままの越年となってしまいました。現在の仕事では排水処理用の製品を売れば売るだけSDGs 6 「すべての人々の水と衛生の利用可能と持続可能な管理を確保する。」に貢献していますが、退職後はこれもかなわなくなります。これまで長年かかってきた水環境向上にも愛着がたくさんあり、今後どう貢献して行けばよいだろうと考えさせられた機会でもありました。
皆様も日本は水の豊かな国と考えられていると思いますが、私もそう思っていました。以前駐在していた米国と比較してどうなのだろうと、ふと思い調べてみました。米国も私の駐在していたワシントン州はカスケード山脈より西側(シアトルのある方)は湖も多く、水が豊かですが、反対の東側は砂漠化しています。「火星に来たみたいだ。」と言った日本からの出張者がいたくらいです。カリフォルニア州南部では水源の確保のために下水を高度に処理し水源に戻して飲料水の確保に努めています。日本では、砂漠化していないし、下水もトイレのフラッシング水に再利用する程度だし、日本の圧勝と思っていました。
国連のAQUASTATで調べてみると、日本の貯水量は年間4470億m3です。(琵琶湖の水量の約13個分となる計算です。) これに対し、米国の貯水量は年間約4兆045億m3です。日本の約10倍となります。米国の国土面積は日本の26倍、人口は2.8倍ですから、国土面積当たり貯水量では日本の方が3倍多くなりますが、1人当たりの貯水量は米国の方が3倍ほど多い計算となります。日本の水源の9割以上は河川や湖等の表層水です。しかも、日本は国土が縦長で、国土の中央に高い山々が聳えていますから、水の滞留時間は非常に短い(短い時間で海にながれてしまう)という特徴があります。よって、砂漠化の印象が強い米国と比べても、日本は決して水が豊かとは言えなさそうです。
貯水量出所: https://www.fao.org/aquastat/statistics/query/index.html
そういう貴重な水源を私たちは日々の生活の中でどう守っていけばいのでしょうか? 普段の生活排水は下水管を通って、下水処理場で処理されるか、下水管が通ってない地域は各家庭に設置された浄化槽が処理して河川に放流してくれます。 しかし、水環境を悪化させる大きな要因の一つには下水管や浄化槽を通らないで、河川へ直接流れ込む汚水があります。例えば、道路上で自動車を洗車すると、自動車に付着した汚れ、洗剤、ワックス等が側溝を通って、直接河川に流れ込み河川を汚染します。米国(私の住んでいたワシントン州)では自動車洗車場以外では洗車禁止となっており、ガソリンスタンドかカーディーラーで洗車しています。ペットの糞もちゃんと拾って、処理しないと、側溝に流れ込み、河川の水質汚染につながります。近所では家の中でタバコを吸えない人が外で家を吸って、側溝や水路にぽいと投げ捨てる光景もしばしば目にします。河川へのごみの投げ捨てなど言語道断です。米国では側溝に雨水以外は流せない法律や条例があり厳しく守られているのに、日本ではまだまだ水環境保全に対する施策や人々の意識が甘いように感じられます。大事なのは「環境を守ろう」という人の心です。
今年後半から晴れて独立診断士活動を始めることができます。年頭にあたっては、どう活動していくか計画も作成しなくては、と思っています。水環境とのかかわりあいを継続していくには水環境関連の事業者様の海外展開支援は当然ですが、何かしら水環境に関する地域貢献活動にも関わって行きたいと考えております。
「水の世紀」は水を争うのではなく、「水をきれいで豊かに保つ世紀」としたいですね。