日本で唯一の経営コンサルタントの国家資格を持つ中小企業診断士の集団です

中小スポーツ用品企業の海外展開

2023-09-07

三多摩支部国際部
石井 俊哉

 

1.はじめに

日本では新型コロナウイルス感染症が第5類に分類され、海外への渡航も徐々に増えてきた中で、来年2024年に夏季五輪・パラ五輪がフランス・パリで開催されます。スポーツ熱が世界的に高まることが予想され、スポーツ用品企業に勤めている私としては、連日目が離せない期間になります。

スポーツ用品企業と聞くとミズノやアシックス、NIKEやadidasなど幅広い競技に渡って用品を供給している大企業が頭に浮かびますが、200人前後の中小企業であっても、特定のスポーツに絞って事業展開し、海外子会社や代理店を通じて、グローバルに用品を供給しトップシェアを確保している企業も存在します。

今回は、一般普及品とは少し異なるスポーツ用品の事業展開について、諸外国の環境も踏まえながらご紹介したいと思います。

2.特定スポーツが盛り上がるために必要な3つの要因

『令和4年度スポーツ実施状況等に関する世論調査(スポーツ庁)』によると、日本でよく観戦されている競技は「野球」や「サッカー」が上位を占めていますが、米国は「アメリカンフットボール」、中国は「バスケットボール」、インドは「クリケット」が最も人気があり、国によって人気のあるスポーツは様々です。

各国におけるスポーツ環境はそれぞれですが、特定のスポーツが盛り上がる要因として、大きく3つの要素が考えられます。
それらの要素について、1つずつ見ていきたいと思います。

2-1.各スポーツの協会等との関係性

特定スポーツを広く普及させるためには、各スポーツの協会等による普及活動が重要です。

例えばインドでは、「インドクリケット管理委員会」という国家管理機関による養成所を設立し、国としてクリケットの普及や将来のクリケット選手の育成を行っています。

また現地でのスポーツ大会開催は、各国・各地域の協会関連組織が主催や賛助しているケースが多く、協会等との関係性強化は重要です。

その一方で、例えばある東南アジアの国では、GDPや人口の成長率が高く市場性が期待されているのですが、私が関連しているスポーツの協会関連組織が2つに分裂しているため、一方に肩入れすることが難しく、静観という状態になっています。

スポーツ用品企業としては、各国の協会関連組織の情報把握を行いながら、面談や用具提供を通じて友好関係を構築し、スポンサー契約や現地のスポーツ大会への協賛等を行うことが、スポーツの普及と同時に自社ブランドの認知度向上につながります。

2-2.有名選手の誕生

特定スポーツが盛り上がる2つ目の要素として、その国から有名選手が誕生することが挙げられます。

中国でバスケットボールが人気になったのは、NBAで活躍し、中国スポーツ界の英雄でもある「姚明(ヤオ・ミン)選手」の影響が大きいと言われています。

日本でも野球の大谷翔平選手や吉田正尚選手など、多くの日本人選手がメジャーリーグで活躍していますが、自国の選手が世界で活躍するというのは、選手への“憧れ”を通じて、そのスポーツが盛り上がる大きな機会となります。

スポーツ用品企業としては、自社ブランドとの適合度を見極めながら国内外の有名選手と契約し、選手の名を冠した商品を販売することで、「あの有名選手が使用する製品」という“憧れ”をブランド連想につなげ、ブランドイメージを構築していきます。

2-3.スポーツが身近にあること

3つ目の要素は、スポーツが生活の身近にあることが挙げられます。

例えば頻繁にテレビ放映されているか、テニスコートや卓球台、バスケットゴール等が手軽に使用できるか、ジムやクラブチームがあるか、道具が購入しやすいか等、生活の近くでスポーツを楽しめる環境は、そのスポーツが根強く支持されるためには非常に重要です。

例えばタイではサッカーの関心度が非常に高く、街中にサッカーやフットサルのコートが多く整備されており、日没頃から多くの人がサッカーを楽しみます。私が以前勤めていた会社のタイ工場も敷地内にサッカーコートがあり、終業後にサッカーを楽しんでいる従業員が多くいました。

スポーツ用品企業としては、海外子会社の設立や現地代理店との契約を行い、幅広いチャネルの構築と輸出体制の整備により、自社製品を広く供給することで、道具が購入しやすい環境を構築します。また構築したチャネルを通じて、学校や公共施設等に道具の無償提供をし、その国におけるスポーツの普及や自社ブランドの認知度を高めていきます。

3.最後に

中国では国として卓球に力を入れており、小学校から本格的な卓球の授業があります。経験豊富な卓球指導者がコーチとして指導するため、卓球が身近なスポーツとして浸透するだけでなく、競技レベルの底上げが幼い頃から行われています。

一方で日本では部活動の運営が学校から地域へ移行することにより、我々が学生だった時と比べて、若年層のスポーツ環境が大きく変化していく見込みです。

各国の政策によってスポーツを取り巻く環境は様々ですが、スポーツ用品企業の一員として、今後もスポーツの普及を支えていきたいと思います。

以上