米国は返品文化! ~米国の返品制度と消費者意識~
三多摩支部 国際部
寺井 一郎
皆様は、色々な場面で異文化を感じていらっしゃるのではないでしょうか?
その中のひとつとして、私の米国駐在経験から感じた「米国の返品文化」について、個人的な意見を述べさせていただきます。
私は駐在中、米国は商品の返品が日本より容易なような気がしていました。私自身、実際返品したことも何度かありますが、私としては、なんとなく抵抗感がありました。そして日本に帰国後、新型コロナウイルス禍でECサイトでの購入が多くなったことで、モノを実際に手に取ることなくオーダーし止む無く返品することがあります。
そこで改めて米国での返品制度の存在を感じ、米国の返品について検証してみました。
引用:経済産業省商務情報政策局 情報経済課 デジタル取引環境整備室
2023年度10回 プラットフォームエコノミクス研究会(2023年3月20日)
「返品の経済学」 慶應義塾大学 河合啓一 ECサイトの返品について
上述の業界別返品率の中で、サイズが合わないことでの返品が多いと思われるアパレルや靴はともかく、家具家電・生活雑貨の米国の返品率は日本の約8倍になっています。返品理由は不明ですが、上述の商品の返品理由の「商品がマッチしていなかった(70%)」に当てはまるのかもしれません。
日本の通信販売にクーリング・オフ制度はありません。返品については事業者が決めた特約(返品特約)に従うことになります。「返品特約」が定められていない場合でも、商品を受け取った日を含めて8日以内であれば、消費者が送料を負担すれば返品ができます。(独立行政法人国民生活センターのホームページから) ただ、日本においては、クレーマー対策として自己都合の返品を認めないことが多く、返品できないないことがあります。結果、返品率が低いと言えるかも 知れません。
米国の場合は、返品ポリシー(返品特約)を拡販に利用していることがあります。実際、商品の返品が無料でできる場合、逆に消費が増加する可能性があると言われています。無料の返品制度により顧客がそのブランドにポジティブな印象を抱き、長期的にはより多くの商品を購入する可能性が増えるのです。「品質や性能に自信がある」ということを顧客へアピールしていることになります。そして返品が比較的容易であることは、消費者と小売業者の双方に利益をもたらすとされています。
米国は長い間、消費者保護に関する法律や規制を整備してきました。消費者は自身の権利を守る意識が高く、商品に対する満足度や品質に厳しい要求を持っています。返品文化は、消費者の権利意識を尊重し、満足度を確保する手段の一つとなっています。米国での個人主義に対応していると言えるかもしれません。そして、米国では顧客満足度の向上や信頼の構築を重視する文化が根付いており、それが返品文化の一因となっていると思われます。一方、日本では商品の品質と信頼性を重視する傾向があり、商品の返品は想定せず、より慎重な購買を重視することが多いと考えます。
近年、米国では返品文化が「リバース・ロジスティックス」を生んだと思われます。1992年に米国の研究者ジェームス・ストックが提唱した「リバース・ロジスティックス」とは、生産者から消費者へ商品が流れていく物流管理をさす「ロジスティックス」に対し、消費者や利用者から生産者へと向かう物流の流れのことです。参考をご参照ください。「リバース・ロジスティックス」により、益々返品が容易になっています。主な業者は、XPO Logistics,、UNITED STATES POSTAL SERVICE、 FedEx、 upsなどです。日本でも、Recustomer、佐川急便、トランスコスモス、富士ロジテックなどの 「リバース・ロジスティックス」が出てきています。
米国では、返品制度と消費者意識、またSDGsから「リバース・ロジスティックス」市場が益々拡大すると考えられますが、日本では如何でしょうか? 私としては、SDGsの観点から必要な事業ではあると思いますが、日本人の消費者意識から米国ほどの必要性は少なく、市場の拡大は限られるように考えます。
参考:「リバース・ロジスティックス」
引用:経済産業省商務情報政策局 情報経済課 デジタル取引環境整備室
2023年度10回 プラットフォームエコノミクス研究会(2023年3月20日)
「返品の経済学」 慶應義塾大学 河合啓一 返品のプロセス
引用:佐川急便のホームページhttps://www.sagawa-exp.co.jp/logistics/solution/reverse/call-center.html
最後に、日本人は返品について抵抗感のある方が多いのではないかと思い、その背景を考えてみました。
・日本人は比較的個人主義とは言えず、返品することで迷惑をかけると感じるのではないでしょうか?
・購入に至る過程を尊ぶため、返品することよってその購入行為が失敗だったのだとは思いたくないのではないでしょうか?
・一度購入したものへは愛着がわき、所有の意識がはたらくのではないでしょうか?
などの日本的文化があるように思いました。これに対し米国は、返品制度と返品に対する消費者意識から返品文化が存在すると考えます。
今回は、「米国の返品文化」を述べましたが、米国だけではなく、日本人から見た他の国々、特にアジア各国の返品の状況とその背景についても検証してみたいと思っております。
以 上