日本で唯一の経営コンサルタントの国家資格を持つ中小企業診断士の集団です

「カスタマイズCSA」による内部統制導入の奨め

2024-09-02

三多摩支部国際部
金子 保宏

「内部統制」絡みの不祥事事件が目白押しである。
巨大企業トヨタの認証不正からはじまり、ビッグモーターの整備不正や小林製薬の紅麹問題など、いずれもいわゆる内部統制・コーポレートガバナンス・コンプライアンス・業務管理・・・という、企業としての内部管理の問題といえる。これら内部管理機能の特性として;

①完全コストセンターである:営業のように直接収益に貢献しないので予防対策はどうしても後手後手に回る。
然しながら、
②一旦顕在化した時のインパクトは莫大である。特に経営体力の弱い中堅中小企業では会社が吹っ飛ぶ

特に中堅中小企業の場合は、組織全体として規模が小さいので本部本社では逆に比較的に「肉眼で」目が届くので良いが、ひとたび遠方や海外の支店工場となると地理的言語的文化的なあらゆる障壁が立ちはだかってモニター牽制が困難となる。本社も最初のうちは緊張して見守っているだろうが、悪い報告が上がらず平和な日々が続けば次第に「便りのないのはいい便り」とばかりに安心することになる。安心しきって任せて(=放任して)いるうちに、ある日突然に環境汚染法令違反や幹部社員の巨額の経費流用等の不祥事発覚で愕然とする。そしてこれらの発覚は往々にして他律的に、つまり環境保護当局の立入査察や税務当局の税務監査で明らかになるために発覚時点ではもはや取り返しがつかない(操業停止処分や数十億円の資金横領被害)。

これらのリスクに自律的に(=傷の浅いうちに)対処するための内部統制強化として、大企業であれば、専門の内部統制や監査部門をおいてにらみを利かせる、あるいは海外の専門の会計事務所等に定期的な監査を契約依頼することでいわゆるガバナンスを利かせることはできるが、いずれも相当量の資金経営資源の投入を要し、そう簡単にはできない。経営資源が限られてる中堅中小では事実上不可能である。

そこで中堅中小企業の内部統制手段として可能性があるのが、いわゆる
CSA(Control Self-Assessment):統制自己評価
である、
CSAとは簡単にいうと、「該当部門が自らを評価し、課題を見つけ、解決することで内部監査・統制を行なっていく方法」である。より詳述すると;

・その業務をよく知る管理者と業務担当者を集めて特定の問題や業務プロセスについて議論し自己評価してもらう。
・外部者(監査人等)よりもよく実務を知る業務スタッフを評価(監査)手続きに巻き込む(アンケートやワークショップ)

これらにより、
・事業当事者の「気づき」を促し「問題意識」を醸成、「問題意識」から「解決」までの手順作業を明示しコミットし実行する。

具体例として、現場幹部に対して、あるいは現場幹部と協議して以下のような質問を用意する。

質問例①
当社(当事業所)は、サプライチェーンにおける強制労働の禁止、児童労働の禁止を含む人権尊重に関する取り組み状況を確認しているか?
質問例②
当社(当事業所)は、所在する国や地域における適用法令及び固有の状況等を踏まえ、贈収賄防止に関する社内ルールを作成し、所属員に周知しているか?

この種の質問に対し、単に精神論で回答するのではなく、第三者に対抗できる(当局や顧客市場に抗弁できる)具体的な証拠書類(経営方針への明記や贈収賄ルールの作成等)を添付保存して随時管理する。
これにより、前述の具体的「気づき」を促し「問題意識」を醸成、「問題意識」から「解決」までの手順、作業を明示実行するための動機付けが可能となる。少なくとも、実務を知らない外部監査人「ごとき」の勝手な指摘に振り回される不快感は避けられる。

ところがこれも、もともとCSA発祥の舞台である大企業スタンダードで行うと優等生的に水も漏らさずあらゆるリスクに対処しようとするため忽ち総質問数が数百問となる。その結果、それでなくても現場業務で多忙な現場管理者としてはいちいち付き合いきれん、となって、おざなりの回答とおざなりの証拠文書で適当に間に合せることとなり、やがて事実上役に立たない取り組みとして形骸化する。
形骸化しないためには、「ヤマをはって」質問数を限界まで絞り込み、多忙な現場幹部がコミットできる質と量に実用的に耐えうる取り組みとすることが必要となる。

そのためにはその企業または事業所固有の以下の事情;
・社長(総経理)は日本人か現地人か? 技術系か経理か庶務系か?
・幹部社員は日本人か現地人か? 技術系か経理か庶務系か?
・製造機能を持つか?
・劇毒物の取り扱いはあるか?
・製品在庫や原料在庫は市場価値のあるものか?
等々に基づいて質問を絞り込み、リスクと手間のギリギリのバランスをとって質問総数を例えば100問程度以下に抑えたその事業所専用の「カスタマイズCSA」とする。
これにより、CSAを形骸化させずに有益なツールとして活用できる。

そしてこの「カスタマイズ」こそ、当該企業の全体像を知る立場にある中小企業診断士こそが企業の現場管理者へ支援可能な仕事であろう。

以 上