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“作業者”から”戦略人材”へ-外国人材を”海外アンテナ”として活用する視点

2025-05-25

三多摩支部国際部
酒向 敦

私がフィリピン進出を支援したある企業の話です。
その企業の経営者は工場の作業者の募集をいくらかけても集まらず、途方に暮れていた時に技能実習制度を知り、藁をもつかむ思いでフィリピン人の方数人を実習生として迎えました。いわゆる3K職場という環境にも関わらず、日本人以上に頑張って働き、忙しい時は休日出勤もしてくれたそうです。
しかし、3年、5年の時はすぐに過ぎてしまいます。
彼らはフィリピンに帰国しても仕事がないのです。

その企業の経営者は、同じ釜の飯を食べた仲間として何とかせねばと考えたあげく、
彼らの祖国、フィリピンに事業所を作ることにしました。
そして、かつて技能実習生として日本に在籍していたフィリピン人2名を、進出先の現地法人の経営者に抜擢しました。

彼らは、日本の本社の事業内容を熟知し、社員とも信頼関係を築いていた人物です。そして同時に、母国のネットワークと商慣習にも精通しており、日本企業が単独で挑んでも築けないような販路や協力関係を自らの手で作り上げました。

「彼らに裏切られたらそれは仕方ない」
そう本社の役員が語ったほど、深い信頼が築かれていたことが印象的です。
このエピソードは、単なる技能実習生や就労者ではなく、『海外アンテナ』としての可能性を秘めた外国人材の活用事例のひとつです。

1.事業の順調さは「関係性」に比例する

私自身、これまで様々な外国人材の活用事例を見てきましたが、ひとつ確信していることがあります。
それは、「経営者と外国人材の関係性が良好な企業ほど、事業がうまくいっている」ということです。逆に、トラブルや誤解が多い組織では、事業そのものが停滞している傾向が見られます。
原因のひとつは、外国人材を「作業者」として扱い、その先にある“人材の成長”や“相互理解”を軽視してしまう姿勢です。
たとえば、ある企業では、技術人文国際ビザで雇用している人材が、輸出先国の市場調査に自然と関わり、FS(フィジビリティ・スタディ)のような役割を担っていました。これは「人材がビジネスのパートナー候補へと進化する」良い一例です。

2.外国人材の「声」を活かすメンター制度

しかしながら、多くの外国人材が直面する問題のひとつに、「将来のキャリアが見えない」という不安があります。
「どのように評価されているのかわからない」「頑張っても昇進できる道が不明確」
──これでは、優秀な人材ほど早期離職してしまうのも無理はありません。
そこで私は、企業にメンター制度の導入を提案しています。
定期的に経営者や上司が対話を重ね、評価基準や将来のキャリアパスを明確にすることは、彼らのモチベーション向上に直結します。また、異文化間の誤解や感情的なギャップも、こうしたコミュニケーションの場を通じて軽減されるのです。

3.外国人材は「将来のビジネスパートナー」

働き手不足が進む今後の日本において、外国人材は“代替労働力”ではなく、『戦略的人材』としての活用が必要です。

特に、価値観や言語、文化の異なる彼らが「働きやすい」と感じる職場環境を整えることが、企業の持続的成長のカギとなります。

三多摩地域の中小企業にとって、まず取り組みやすいステップは、同じ国籍の外国人材を2名以上同時に採用することです。
1人では孤立しやすい環境でも、2人いれば相談や情報共有ができ、職場への定着率が大きく変わります。そして数年後には、彼らが母国との接点となり、現地ビジネス展開の起点になる可能性もあるのです。

4.おわりに:中小企業診断士の役割とは

外国人材の活躍を促すには、企業単体の努力だけではなく、私たち中小企業診断士の支援も不可欠です。

採用・評価・育成、そしてグローバル戦略までを一貫して伴走できる支援体制をつくること。それが、地域の国際競争力を高める第一歩になると考えています。
外国人材は『コスト』ではなく『未来』への投資です。
三多摩から世界へ──その一歩を、足元の多様な人材との共創から始めてみませんか。

以 上