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アジアの次なる成長国 フィリピン

2025-11-09

三多摩支部国際部
櫛田正昭

1.はじめに

日本初の女性内閣総理大臣に選出された高市首相は、10月26日東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議に出席し、外交デビューしました。10月29日から韓国で始まったAPEC総会への出席と合わせて、米国との同盟に軸足を置きながら、東南アジアとの経済・安全保障面での連携強化方針が打ち出されています。報道によると、マレーシア滞在中会議の合間を縫って行われた各国首脳との会談の第1号は、フィリピンのマルコス大統領との個別会談であったようです。

やや旧聞になりますが、本年(2025年)4月に石破前首相は、東南アジア訪問の一環として、フィリピンを訪問しました。南シナ海問題や安全保障協力の推進、米国の関税措置への対応や自由貿易の促進等が議論されました。日本は、トランプのアメリカとうまくやっていかねばならない状況ではありますが、同時に東南アジア諸国との連携は一層深めていくことが不可欠です。

フィリピンは、ASEAN諸国の中にあって、かつては経済面では先行していた時代もあったものの、諸々の事情を抱え、結果として一部ASEAN諸国の成長スピードに追い付けず遅れを取ってしまいました(「アジアの優等生(Asian’s Darling)」→「アジアの病人(Sick Man of Asia)」)が、ここに来て着実な成長が期待されるようになっています。

フィリピンとの貿易、フィリピンに於ける生産・販売・サービスの拠点の展開、フィリピンの事業者との日本に於ける協業等、今後のフィリピンに係る事業の可能性・機会等につき考えるにあたって、フィリピンの現状を確認したいと思います。

2.フィリピンの現況(数字は原則2024年)

経済成長率は、2022年:7.6%、2023年:5.5%、2024年:5.7%と着実な成長を継続。2023 年はタイ(1.9%)、マレーシア(3.7%)、インドネシア(5.1%)などの近隣国を上回っています。2024年はベトナム(7.1%)に次ぐ高い成長率を実現しました。
GDPに占める民間最終消費支出の割合が7割を超えており、国内消費が経済成長の大きな原動力となっています。
対外収支については、貿易収支は、2024年、687億ドルの大幅赤字ですが、海外居住者からの仕送り等があり。経常収支は、175億ドルの赤字にとどまっています。
一人当たりGDPは、2023年に3,805ドル、2024年には4079ドルと4,000ドルの大台に乗せました。
産業構造は、 2024年時点の国内総生産(GDP)における構成比が、サービス業が約62.9%、工業(製造業や建設業など)は約29.1%、農林水産業は約8.0%という内訳になっています。サービス業が6割を超えています。
総貿易額は、(1)輸出 729億ドル(前年比+0.1%)、(2)輸入 1,273億ドル(同+1.0%)。
主要貿易品目及び構成は、
(1)輸出 電気機器・部品(40.2%)、機械類(8.4%)、光学・精密・医療機器(4.5%)
(2)輸入 電気機器・部品(15.2%)、燃料及び鉱物油類(15.0%)機械類(8.0%)、鉄鋼(3.3%)
主要貿易相手国は、
(1)輸出 米国(16.5%)、日本(14.0%)、中国(12.9%)、EU(12.9%)
(2)輸入 中国(25.8%)、日本(7.9%)、韓国(7.6%)、米国(6.4%)EU(5.9%)
対日輸出額は、102億ドル、対日輸入額101億ドル
日本からのフィリピン直接投資額は、286億ペソ
外貨準備高:952億ドル。対外債務残高:1376億ドル。
失業率:3.8%。 消費者物価上昇率:3.2% 平均年齢:(中位年齢)25.3歳(2020年)
在留邦人数:12,648人(2024年10月1日現在)、
在日フィリピン人数::約349,714人(2025年6月末現在)

3.フィリピンの抱える経済発展の負の要素

フィリピン政治・経済面での過去の負の要素を思いつくまま上げると下記の如くでしょうか。ただ近年に至り改善の兆しが見えているものもあります。
ⅰ)フェルナンデス・マルコス長期独裁政権(1965年-1986年)下の腐敗の影響存続
F.マルコス大統領とその側近が主要産業や国営企業を支配し、富を独占。汚職が蔓延(縁故資本主義)、資本形成ができず、外国資本が逃避した時代が続きました。
ⅱ)政情不安、治安
ベニグノ・アキノ・ジュニア上院議員暗殺。軍部クーデターの試み等々フィリピンの社会・政情は不安定な状況が続きました。
ⅲ)貧富の差の拡大
農地所有集中は解消されず、所得格差が大きく、中間層生成が遅れています。国内雇用機会は不十分な状況が続いています(ただし、直近の失業率は低下しています)。労働市場改革、人的資本への投資はまだ遅れた段階にあると言われています。
ⅳ)ミンダナオ島のモスリム勢力対応
ⅴ)法制・官公庁手続きの煩雑さ、不透明さ
どこの国にもあることですが。
ⅵ)近隣国諸国との地政学的な対立
ⅶ)経済政策の失敗:
輸出指向型工業化の遅れ(他ASEAN諸国比)。インフラ投資遅れ(電力、交通、港湾)。サプライヤー基盤の不整備

4.今後注目すべき良い兆候

ⅰ)近時の政権の安定、民主化
近時政権は国内的にはいろいろな軋轢がありながらも安定度を増し、経済運営は比較的順調に行われています。現マルコス政権は、「フィリピン開発計画(PDP)2023-2028」を推進中です(特別区への企業誘致、外資規制緩和、企業減税、インフラ投資等)。
ⅱ)高い経済成長率を継続、一人当たりGDPは4,000ドルレベルへ
2024年一人当たりGDPは4,079ドルまで増え、生活に余裕が出て嗜好品や家電が売れるようになるレベルを突破しています。
富裕層だけでなく、中間層の拡大も期待されています。
ⅲ)人口ボーナスの享受
フィリピンの人口は2000年が7,963万人でしたが、2023年には1億1,500万人となり、2060年は1億4,000万人まで増えると予測されています。生産年齢人口(15~64歳)の増加が見込まれ(2023年時点では全体の6割。)ています。他のASEAN諸国よりも人口ボーナス期が長く続き、ASEAN屈指の成長を遂げることが期待されており、まさに成長余力を秘めた国です。
豊富かつ安定した労働力の供給が見込まれます。
ⅳ)特色のある産業構造
フィリピンの主要産業としては、電子機器の組立(特に半導体などの電機製品)、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)、観光業、農産品(ココナッツ油や果物など)、鉱業資源(ニッケル等)が挙げられます。
最近、フィリピンのITビジネス・プロセス・マネージメント(IT-BPM)産業(ITを活用した業務委託サービス全般。コールセンター、医療情報管理、バックオフィス業務等)は、雇用と収益が増加傾向にり、この分野は今後大きな伸長が期待されています。
ⅴ)海外へ出稼ぎしている労働者からの仕送金が増加
2023年に約372億ドルにのぼる海外からの送金があり、国内消費の重要な支えとなっています。
ⅵ)日本からの投資の増加、多様化
例えば、製造業では横浜ゴム(クラーク特別経済特区でタイヤ工場の生産能力を倍増)、トヨタ・モーター・フィリピン(TMP)(次世代型アジア向け多目的車(AUV)「タマラオ」の現地生産体制を整備)、ブラザー工業(第3工場を完成)などが報道されています。非製造業では、ニトリの出店拡大、ファッションブランド店展開、丸亀製麺のフィリピン50店舗目となる新店舗のオープン等の事例があり活発化しています。
ⅶ)近時のフィリピンの投資環境の優位性
(1) 豊富でかつ安定した労働力の供給余力
(2) 低賃金かつ上昇率が緩やかな人件費
(3) 英語で意思疎通が図れる
(4) 親日的な対日感情

5.結び

最近のフィリピンの経済・社会の状況をざっと見てきましたが、フィリピンは、一時成長スピードが遅くなったことは確かですが、将来については、むしろ他国比成長の速度を速める可能性が高いと思われます。国内内需の増加が予想され、日本の中小企業にとって、進出の機会は十分にあると考えられます
同時に、フィリピン企業の日本進出も、業種によるばらつきはあるものの、期待は一層高まるものと思われます。
一歩早くフィリピンを研究しておくことをお勧めしたいと思います。

(出典)

  • 「内需主導のフィリピン経済」 公益財団法人 国際通貨研究所 経済調査部
  • 「フィリピンの投資環境」 JBIC 国際協力銀行
  • 「フィリピンの貿易投資年報」、「海外ビジネス情報」等Jetro Website
  • 「フィリピン経済の現状と今後の展望」中小企業自治体DXニュース
  • 外務省、JICA、第一生命経済研究所、日本経済新聞社、NHK等Website